映像制作大手の東北新社は、7月に3Dインベストメント・パートナーズから提案された株式公開買付け(TOB)を通じた非公開化提案を退けることを明らかにした。3Dはシンガポールに拠点を持つ投資会社で、東北新社をTOBしたうえで少数株主から株式を買い取り上場廃止、そのうえで経営改革を進めるとしていた。
東北新社は現在の経営陣、3D、植村久子氏ら支配株主と利害関係のない社外取締役5名からなる特別委員会を設置して、提案内容を5回にわたり検討した。その結果、現時点では提案を受け入れるべきでないとの判断をした。
判断の根拠となったのは、東北新社の株式の大半を保有する支配株主の姿勢である。特別委員会は支配株主が持分を売却する意思がないことを確認したうえで、TOBをした際の実現可能性が疑われるとした。
東北新社の最大株主は創業一族の植村久子氏で、親族の植村綾氏、資産管理会社のNAMC、from Bと合せて過半数の株式を保有している。支配株主の同意がなければ、3Dが計画する50.1%以上の買付けは出来ない。
また提案された企業価値の向上策についても、広告クリエイティブ事業の強化は現在の大手広告代理店との取引にコンフリクトが生じてマイナスの影響があるなど実現性に疑問を呈した。海外系動画配信サービス向けの映画・ドラマ制作市場への参入は、現状では販売ルートが構築出来ておらず、購入先が見えないまま投資が先行するのでないかとした。
そのうえで3Dが自社の強みとして挙げる「専門家ネットワーク」の優位性に、具体性がないと指摘する。提案のなかで言及されていたアニメーション制作会社買収や外部アニメプロデューサーの引き抜きなどの制作進出に対しては、見解を示さなかった。
一方で、現在、示されている買付け価格「600 円~650円」が引き上げられた場合は、支配株主が株式売却を検討する可能性もないわけでないとする。そのため3Dが会社の価値を判断できるデュー・ディリジェンスの機会を提供するとしている。
今回の回答を受けて、3Dが新たな提案をするかは不明だ。しかし支配株主の株式売却の意志がないため敵対的買収に転じても成功する可能性は低い。デュー・ディリジェンスをしたうえでの買収提案内容の引き上げも効果は薄いとみられる。今後、3Dは撤退か大株主のひとつとして経営改革に関与していくかの選択を迫られることになりそうだ。