2024年4月22日に、米国映画芸術科学アカデミーが来年の米国アカデミー賞の選考ルール改定を発表した。この変更の一部が、国際長編映画賞と長編アニメーション映画賞のエントリー作品に影響を与えそうだ。
国際長編映画賞は2018年まで外国語映画賞として知られた部門で、2008年の『おくりびと』、2021年の『ドライブ・マイ・カー』の2度の受賞をはじめ直近の『PERFECT DAYS』まで日本から15回のノミネートがある。長編アニメーション映画賞も宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2002年)、『君たちはどう生きるか』(2023年)の2度の受賞を含めた7回のノミネートがあり、こちらも日本と馴染み深い。
今回のルール変更の大きなポイントのひとつが、国際長編映画賞と長編アニメーション映画賞の関係だ。新しいルールによると、国際長編映画賞にエントリーした作品は、同時に長編アニメーション映画賞のエントリーともみなされる。
ここで注目されるのは、国際長編映画賞と長編アニメーション映画賞の選考方法の違いである。国際長編映画賞では米国映画芸術科学アカデミーに代わり、各国・地域の映画関連団体がそれぞれ1作品をエントリーとして推薦する。他の多くの部門のように米国で商業公開されている必要はない。
一方の長編アニメーション映画賞は、該当年の決められた期間に米国の主要都市で1週間以上の商業公開があることが条件だ。一般に海外の長編アニメーション映画の多くは集客力が弱いことから米国で商業公開が少ない。このため世界的な評価が高い作品でも、米国アカデミー賞のエントリー基準に達しないことも多かった。今回のルール改定は国際長編映画賞の基準を超えることを条件に、そうした作品にもアカデミー賞ノミネートの道をひらく。
もちろん各国が選考する国際長編映画賞の主流は実写映画であるから、まずアニメーション映画は国内選考の高いハードルを越える必要がある。しかし近年は存在感の高まりもあり、各国がアニメーションを代表選出するケースも増えている。前回で言えばハンガリーの『コヨーテの4つの魂』、アルメニアの『Aurora’s Sunrise』、ポーランドの『Chlopi』、フィリピンの『Iti mapukpukaw』の4作品がこれにあたる。
日本でも1995年に高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』、1998年に宮崎駿監督の『もののけ姫』、2020年に新海誠監督の『天気の子』が代表となっている。長編アニメーション映画賞では、日本作品はこれまでは米国配給をする現地映画会社がエントリーを行ってきた。もし国際長編映画賞の日本代表にアニメーションが選ばれれば、米国公開がなくてもノミネートが可能になる。
ただこうした条件は全ての国に共通だ。国際長編映画賞のエントリー作品は、それぞれの地域の選考を経た作品だけにその時点ですでに高い評価がある。そうした作品が加わることで、長編アニメーション映画賞のノミネート競争は今後さらに熾烈になりそうだ。
同時にかつてはハリウッドスタジオのCG作品ばかりがノミネートされるとされてきた長編アニメーション映画賞の状況も変るかもしれない。近年多様化の兆しが出てきた同部門の変化の流れを加速しそうだ。