今年第77回を迎えるフランスのカンヌ国際映画祭は、映画界で大きな業績を残した人々を顕彰する名誉パルムドール賞(Palme d’honneur)に日本のアニメスタジオであるスタジオジブリを選出した。
カンヌ国際映画祭は、世界三大映画祭のひとつとして映画界の最高峰とされている。名誉パルムドール賞はオフィシャルコンペティションでの上映作品から選ばれる通常のアワードと異なり、映画祭主催者が選出する。
1997年にイングマール・ベルイマン監督に贈賞されたのが最初で、当初は不定期に実施されていた。2015年以降はほぼ毎年、贈賞されるようになったが、それでもこれまでの受賞者は今年のスタジオジブリとジョージ・ルーカスを含めても20人・団体に過ぎない。
これまでの受賞者にはカトリーヌ・ドヌーヴやアラン・ドロン、ハリソン・フォードなどの俳優やイングマール・ベルイマン、ベルナルド・ベルトルッチといった監督、それにドリームワークス創業者のジェフリー・カッツェンバーグといった名前が並ぶ。個人でなく団体が受賞者になるのはスタジオジブリは初だ。またヨーロッパ・米国以外からの選出も、アニメーション分野から選ばれるのも、いずれも初めてと異例づくしの顕彰となった。
映画祭は今回の決定について、スタジオジブリで映画監督した宮崎駿と高畑勲のふたりがハリウッドの巨匠たちと並ぶ存在であるとして説明する。さらにスタジオが過去40年にわたり世界のアニメーションに新しい風を吹き込んできたとする。また宮崎駿と高畑勲は独立系プロダクションとして純粋な傑作を作りだしているだけでなく、大衆性を獲得していると讃える。
今回、団体での受賞となったのは、宮崎駿と高畑勲のひとりだけを選び切れないという事情に加えて、新しい世代を生み出したそうしたスタジオの制作のやりかたも価値として重視したといえる。
また映画祭は、スタジオジブリだけでなく、日本のアニメーションが伝統と現代性の間でシネフィリアへの大きな冒険を続けているとも評している。日本のアニメーションの世界的な認知と評価の高まりも、今回の受賞は無縁でもないだろう。
さらに映画祭は名誉パルムドール決定にあたり、これまでカンヌが上映してきた世界のアニメーション作品を並べて紹介している。いかにカンヌがアニメーションを重視してきたかを強調するものだ。近年、映画業界で強まるアニメーションの評価の流れをカンヌが捕まえるかたちだ。アニメーションにおいても映画祭が確固たる立場を築くため、この分野で大きな存在であるスタジオジブリをフィーチャーするといった戦略も感じさせる。