東宝×「World Maker」 ジョーダン・ロバーツ監督はいかに短編実写化作品を選びだしたのか (前編)

東宝×「World Maker」 

 2023年12月、東宝本社のゴジラ会議室に、ハリウッドの大物監督ジョーダン・ヴォート=ロバーツさんが姿を見せた。ロバーツ監督はこの日、東宝と「World Maker」が実施した「東宝×World Maker短編映画コンテスト」のファイナリストの前に立ちティーチインを行った。今回、監督はコンテストの審査員を務め、その選考のために来日、それがティーチインにつながったのだ。

 ティーチインでは代表作『キングコング:髑髏島の巨神』や短編映画などを例に取り、自身のクリエイティブ、作品の生みだしかたについて語った。話の中心は、実写映画のなかにおけるストーリーボード(コンテ)の役割についてだ。
 冒頭、監督は「日本ではアニメやゲームに較べて、実写映画ではストーリーボードが一般的でないと聞いて驚いている」との発言。ハリウッドでは実写でもストーリーボードは一般的に使われており、それには「自分の考えを明らかにする」、「俳優に自身の考えを伝える」といったビジョンを明らかにする役割があるという。
 さらに現在は、ストーリーボードから仕上がりをイメージしたシミュレーション映像であるプレビズが作られると説明。最近はこれらの出来が映画の完成度も決めるのだとのハリウッドの最新事情に参加者らは熱心な様子で聞き入った。
 監督はそのうえで、今回のコンテストで利用された「World Maker」について高く評価する。ツールがシンプルで使いやすいだけでなく、応募作品には素晴らしいものがあったという。またコンテの使い方やアイデアに驚かされて発見もあったそうだ。

 「World Maker」は、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」の編集部が、創作ツールとして開発した。絵が描けなくてもアプリを利用することで、マンガのネームやアニメ、映画、ドラマなどの映像コンテンツのコンテもつくることができる。より多くの人のアイデアを、マンガや映像作品の実現に近づけるといった考え方から生まれた。アプリのユーザー数は開始5ヵ月で累計 2万5000 を超え、約 5万もの作品が制作されというから狙いどおりと言っていいだろう。
 さらに「少年ジャンプ+」編集部はアプリを提供するだけでなく、ネームやコンテを作品につなげるプロジェクトを進めている。アプリで投稿されたネームやコンテを実際に作品にしてしまおうというものだ。「東宝×World Maker短編映画コンテスト」は、そのひとつだ。映画業界大手の東宝が「World Maker」と協力し、エントリーされた作品を選考のうえ、実際に短編映画にする。その審査員としてロバーツ監督も招かれた。

「少年ジャンプ+」編集部で「World Maker」の運営に携わる林士平さんは、「東宝×World Maker短編映画コンテスト」について次のように説明する。

「今回のコンテストをマンガやアニメでなく実写映画としたのは、仕事で繋がるドラマや映画の実写のかたがあまりコンテを使わないことに気づいたからです。マンガはネームで完成に近いカット割のビジュアルで打ち合わせしていますし、アニメでは脚本から必ずコンテになります。実写でももっとよいかたちもあり得るんじゃないかと思ったのです。
「World Maker」はマンガのために作ったのですが、そこを「コンテメーカー」とか「ネームメーカー」と漫画由来の名前にしなかったのは、企画の最初からアニメにも、実写にも、CMにも使えるようにという発想がありました。
またいろいろお話を聞くと、確かにコンテはあったほうがいいけれど、脚本や監督はできるけれどきれいな絵が描けないこともあったりします。コストをかけないでこれを出来る機能をアプリに実装しました。
そのうえで東宝さんにお声掛けして、一緒にコンテストやることになりました。応募は膨大な数でした。膨大な数で、僕らも見るのが大変でしたが、様々な作品に出会えて良かったです。間違いなく裾野は広げられたなと成果を感じています。
次のステップは、裾野を広げ続けると同時に、そこから高みに登る人を引っ張り上げる方法を探すことです。ユーザー同士が面白い使い方を教え合ったり出来る創作ツールコミュニティを作れればいいなと思っています。」

後編に続く 

(写真:左から林士平氏、ジョーダン・ヴォート=ロバーツ氏、馮年氏)

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