『いきものさん』はいかに誕生したのか? プロデューサーに訊く 高田伸治さん(東映アニメーション)&土居伸彰さん(ニューディアー)

『いきものさん』© 和田淳・ニューディアー/東映アニメーション

『いきものさん』の製作で多くの人が驚いたのは、東映アニメーションがそれを担当することだろう。世界的なアニメーション作家である和田淳さんと巨大なアニメ製作会社はいかに結びついたのだろう。
作品を担当した東映アニメーションの高田伸治さんと企画を持ち込んだニューディアーのプロデューサー土居伸彰さんに、『いきものさん』が制作された理由、作品の反応などを伺った。
[聞き手:数土直志]

――『いきものさん』の企画がなぜ成立したのか、なぜ作品が作られたのか、そういった話をお伺いできればと思います。最初に『いきものさん』を企画・制作をされているニューディアーとはどういう会社か教えてください。

土居伸彰(以下、土居)
アニメーションに関して、配給や製作、映画祭運営や執筆などさまざまなかたちで“紹介”を行う会社と僕は言っています。2015年に海外アニメーションをする会社として立ち上げたのですが、現在は日本の面白いアニメーション作家を世界に広めるプロデュースの活動に重きを置きはじめています。最初は短編の製作が主でしたが、個人作家の活動をマーケットに繋げることを意識的に考えており、最近は長編、シリーズ、ゲームの企画の成立に積極的です。今回初めてのシリーズ作品『いきものさん』で東映アニメーションという大御所と組めることになったのはとても光栄です。

――『いきものさん』ではアニメーションシリーズに先立って、同じ世界観を持つ『マイエクササイズ』(*)のゲームの成功があります。成功したゲームから映像化、シリーズとしてピックアップされたのかなと思いました。

土居
そうではなく、もともと『マイエクササイズ』は『いきものさん』というシリーズをやるためのパイロット版企画だったんです。ゲームだけではなく短編アニメーション版も作っていまして。海外向けに子供向けシリーズとして売り込んでいたのですが、なかなか難しそうだと考えている時期に、東映アニメーションの高田(伸治)さんからコンタクトがありました。
*『マイエクササイズ』/2020年8月にニューディアーがリリースした和田淳監督・脚本のインディ・ゲーム。少年と飼い犬に腹筋などの運動をさせるコミカルな動きが特徴。

――高田さんは、なぜ『いきものさん』が引っかかったのですか。

高田伸治(以下、高田)
土居さんが主催するイベントに足繫く通うくらい、短編アニメーションは自分の好きなジャンルのひとつでした。僕は、東映アニメーションで新企画の開発を主に担当していて、自分が好きな短編アニメーションで何かやれないかなと思いました。そこで土居さんに連絡をしました。その時に「『いきものさん』という企画があります」と土居さんに提案され、「最高ですね、やりましょう」と。その後に、少しずつ走りだしました。

――『いきものさん』は、なぜ行けると?

高田
その時点で『マイエクササイズ』があり、ゲームとしての評判がありました。それに和田さんのこれまでの受賞歴があります。さらにネットでゲーム実況やVTuberさんがかなり『マイエクササイズ』の実況動画をしていたことがプラスになりました。

土居
インディ・ゲームは口コミで広がるケースが多いので、『マイエクササイズ』も海外のYouTuberがたくさん見てくれればいいなと思ってはいたのです。しかし意外なことに、日本のゲーム実況系YouTuberや、VTuberもキズナアイなど有名な方々が『マイエクササイズ』をかなり取りあげていて、ネットでバズっていました。

高田
そこに『PUI PUI モルカー』(*)などのショートアニメが注目されてきたタイミングもありました。
*『PUI PUI モルカー』/見里朝希監督・脚本のストップモーション・アニメーションの短編シリーズ全12話。2021年1月から3月にテレビ東京系で放送され人気を博した。

――『いきものさん』をテレビ放送に持ってきた意図は何ですか?

高田
YouTubeで流すだけだとどうしても広がりに欠け、ただ単に変わったことをしているとしか見られないなと思っていたので、テレビで流す必要は絶対にありました。あとはテレビ放送した枠(MBS/TBS系全国28局ネット金曜日深夜)が、多様な表現を許してくれたことも大きな要因です。

土居
テレビの枠が決まるまでの調整にかなり苦労した記憶があります。もともとは子供向けの企画としてスタートしたので「朝がいいよね」みたいな話をしていましたが、実は朝の短編枠というのはかなり少ない。
その後MBSさんに加わっていただけることになり、今回の深夜放送枠に入りました。時間帯的に子供向けからは遠くなりましたが、逆に子供に対してはYouTubeや配信でフォローできるかなと考えました。テレビで流れていると事故みたいな出会いもあってそこが面白いですよね。

――ワンシーズンの作品となると、和田さんのこれまでの制作量と較べて大変ではなかったですか?

土居
制作体制は、和田さんのこれまでの作品とあまり変わっていません。作画や彩色あわせ、関わったのは10人に満たないと思います。一般的なアニメシリーズと比べるとだいぶ変わったやりかたをして、和田さんは、監督や脚本はもちろん、作画監督から制作進行までやった、という感じです。
最初の頃には、和田さんから手を離すエピソードもあってもいいかもしれないと話していました。けれどもギリギリやり切れるぐらいの量だし、和田さんのこだわりをしっかり出していくとのことで、今回はかなり個人制作に近い体制で作りました。

――今回、副音声バージョンという面白い試みがありました。これについて教えてください。

高田
誠さん(ヨネダ2000)、浦井のりひろさん(男性ブランコ)が声を当てた『いきものさん』をメインとしながらも、何か違うアプローチで楽しめないか、提案できないかと思い、いろいろなかたが声をつける副音声に挑戦してみました。
実際はどうなるのか全く分かっていなかったので、最初の収録は結構ドキドキしてました。それが一発目で愛さん(ヨネダ2000)、平井まさあきさん(男性ブランコ)が掴んでくれて、こういう感じなんだ、こういうことをしたかったんだと分かりました。

土居
競馬実況アナウンサーやラッパー、声優など、いろいろな分野の方に副音声では関わっていただけました。和田さんの作品は感性の強い人にはぱっと伝わりやすいですが、咀嚼をサポートすることで楽しんでもらえる人を増やしたいとも思っており、副音声を通じて、「こういう楽しみ方もありなんだ」と見てもらえるといいかなって。

――作品が伝わっているという視聴者からの反応は感じられましたか?

土居
アニメだとそのクールの作品は全部見るという人もいますが、そういった人の視聴対象に入って、それがクールで最後まで見る作品に残ったりしていて、嬉しかったです。いわゆるアニメファンであっても、和田さんの作風は浸透しうるのだなと。
僕が想像したよりは、ずっと多くの人に作品は伝わっています。中盤以降のエピソードは結構ハードなこともやっていますが、こちらが思っていた以上にしっかり楽しんでいただけたなと。

――ありがとうございました。日本のアニメーションシーンに一石を投じた作品になりましたね。これからの取り組みも楽しみしております。

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