日本のアニメが国内外で人気を博する一方で、アニメーション制作の現場の疲弊が進んでいる。慢性的な人材不足のさらなる深刻化、労働環境、制作における利益の分配の在りかたなど問題は山積だ。現状のままでは、現在の制作スタイルは維持できないとの危機感は大きい。
そうした問題をアニメーション制作のスタッフから解決できないかと、新たな業界団体がこの春に立ちあがった。2023年4月27日に設立された「一般社団法人 日本アニメフィルム文化連盟」である。
2023年5月19日、東京・池袋のとしま区民センターにて、日本アニメフィルム文化連盟の設立記者会見が開催された。冒頭あいさつに立ったのは、団体の代表理事である植田益郎氏。植田氏はアニメーシュン制作のサンライズ、A-1 picturesの社長、アニメ製作のアニプレックスの社長の経験がある業界のベテランだ。業界の近くにいただけに、その現状危機の訴えはリアルである。
植田氏によれば、組織はアニメーション制作スタッフからなる職業正会員のほか、サポーター正会員、準会員、賛助会員から構成される。公式サイトでは発表に合わせて無料準会員の募集も開始した。賛助会員には制作企業からの参加も期待しているという。業界全体で課題に取り組みたいとの方向があるようだ。
そのうえで日本アニメフィルム文化連盟は、6つ事業を掲げている。
1.人材育成
2.政策提言・業界ヒアリング
3.セル画や原画のアニメアーカイブ
4.アニメ福祉関連・アニメの社会的利用
5.アニメコミュニティ
6.イベント
である。
なかでも早い段階で実現しそうなのが、「アニメータースキル検定」である。株式会社たくらんけと協力してアニメーター教育の教材・教科書を開発、さらに取得技術ごとに5級から1級までの技能認定をする。知識にもとづいた筆記記述試験だけでなく、トレースやタップ割り、デッサン割りなどの技能テストを重視する。
検定の目的はアニメーターの基礎技術の底上げと、キャリアアップシステムの確立である。いまアニメーション制作現場では人材不足から技術が未熟な新人が制作に加わり、リテイクと呼ばれるやり直しやベテランによる大量の修正が発生している。これがアニメーション制作での無駄な作業となり、疲弊に拍車をかけているともいう。
検定には技能の習熟を可視化することで、こうしたミスマッチをなくすことが期待出来る。また級を設けることで、効率よく段階的にレベルアップも目指せるというわけだ。アニメータースキル検定が広く業界で活用されれば、大きな効果が期待出来るだろう。
一方で新しい組織だけに、課題もある。ひとつはアニメ業界にはこれまでも、アニメ製作スタジオ・企業を中心とした日本動画協会、さらに制作スタッフ中心のアニメーター・演出協会が存在する。それぞれがアニメーター人材に関する取り組みをしている。それは多重投資で非効率にも見える。
日本アニメフィルム文化連盟は既存の団体とも協力するとしているが、フリーランスのアニメーターや演出、美術が参加するアニメーター・演出協会との違いが判り難い。職業正会員の入会金1万円、年会費1万5000円は若いスタッフにやや重いに金額でないだろうか。組織運営・事業実施には少なくない予算が必要とされるだけに、幅広い参加と協力を呼び込むことでいかに事業継続していくかが今後の鍵になりそうだ。
一般社団法人 日本アニメフィルム文化連盟
https://nafca.jp/