企画から海外とつながる。「+Ultra」が目指す新しいアニメづくり フジテレビ、クランチロール、スロウカーブ プロデューサー鼎談

鼎談

 2018年10月にフジテレビが立ち上げた深夜アニメ枠「+Ultra」は、「海外にアニメカルチャーを広げたい」とのコンセプトのもと、ハイクオリティーのアニメ作品をプロデュースしてきた。『BEASTARS』や『GREAT PRETENDER』など数々の話題作を世に届けている。
 その「+Ultra」が世界に向けてさらに大きな飛躍をする。この9月にアニメ配信の世界的大手クランチロールと共同製作体制を発表、さらにスロウカーブも加えた新企画の共同開発、マーケティングを目指す。国内大手放送局と世界的プラットフォーム、そして企画会社はどうやって結びついたのか、その目的な何なのか、3社のキーパソンに集まっていただき、新しい「+Ultra」について語っていただいた。
(取材・編集:数土直志)

【参加されたかたがた】
□森彬俊(もり・あきとし) フジテレビ アニメ開発部プロデューサー。2014年に深夜アニメ枠「ノイタミナ」編集長、2018年4月には新アニメ枠「+Ultra」を立ち上げる。
□山口貴也(やまぐち・たかや) クランチロール ヘッド・オブ・アニメプロダクション& コンテンツ ストラテジー。主なプロデュース作品は、映画「ニンジャバットマン」、「DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団」など。
□尾畑聡明(おばた・としあき) スロウカーブ代表取締役。プロデュース作品として、TVアニメ「revisions リヴィジョンズ」、映画「HUMAN LOST 人間失格」ほか、宣伝プロデュース作品として「PSYCHO-PASS サイコパス」、「BLAME!」、「亜人」を手掛ける。

■「+Ultra」の3社体制、新たな枠組みの理由
――フジテレビが「+Ultra」枠をクランチロール、スロウカーブと組んで企画を共同開発するとのニュースがありました。プロジェクトの趣旨を教えていただけますか。

森彬俊氏(以下、森)  2018年10月に「+Ultra」枠がスタートして、3年目が終わりました。3年間、日本と海外に響く全世界的なコンテンツはこういうものだろうと考えてやってきましたが、自分達の頭の中だけでやるより、そこに知見のあるパートナーと組むのが「+Ultra」の成長にはいいのではないかと感じました。そう考えるなかでスロウカーブさんに、海外にコアユーザーのいるプラットフォームであるクランチロールさんを紹介していただき、新体制としてスタートを切ります。クランチロールさんは世界最大級のアニメ配信プラットフォームなので欧米のユーザーがどういったアニメを好むのかの視点をお持ちです。企画・開発の段階から加わって欲しいというところです。

「+Ultra」とは:
「海外にアニメカルチャーを広げたい」というコンセプトのもと、高品質で世界基準のアニメ作品を全世界に向けて発信するフジテレビの深夜アニメ枠。2018年10月スタート。第1弾作品は『INGRESS THE ANIMATION』、他に『revisions リヴィジョンズ』『キャロル&チューズデイ』『BEASTARS』など。

尾畑聡明氏(以下、尾畑)  二次展開やファンコミュニケーションをより伸ばしたいというのがあった時に、山口(貴也)さんから企画・開発から一緒にやりたいとありました。そこでふたりをつないだかたちです。

山口貴也氏(以下、山口)  クランチロールは2015年頃から、番組の買い付けだけでなく製作委員会に出資して、海外窓口を担当することもやっています。3年ほど前からは「クランチロールオリジナル」と呼ぶ作品を始めて、本社での企画を日本で作ってもらったりしました。ただ試行錯誤するなかで、結論として自社主導の完全オリジナルや原作ものでも独自にかつ安定的に企画製作を行うのは実力的にまだ厳しいものがありました。あと僕らが知っているのは欧米、とくにアメリカの観客なのでどうしても欧米寄りの作品になり、日本に向かない傾向がでます。僕らが目指すのは日本のアニメファンにも海外のアニメファンにも響く作品です。「日本のアニメファンをターゲットにした作品に長けているパートナーと組んで、補完し合って全世界を目指したい」と尾畑さんに相談し、フジテレビさんとご一緒することになりました。

――クランチロールの配信は日本以外の世界なので、日本を意識しなくてもよいようにも思えます。

山口  正確に言えば日本を含むアジア以外です。ご一緒するスタジオさんやクリエイターさんにとっては日本での評判はとても重要ですので、それをきっちり保つのは大事だと思います。欧米のアニメファンのテイストは日本と違い、好きなものも微妙にずれていますが、一方で日本で何が受けているかは彼らの嗜好性やトレンドに影響します。日本は無視して、海外だけで当たればいいというのは違います。

クランチロールとは:
200以上の国や地域にアニメを配信する世界最大級のアニメプラットフォーム。日本での放送直後のサイマル(同時)配信に強みがある。2006年、米国・サンフランシスコで設立。2021年8月にソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのファニメーション・グローバル・グループ傘下。

――クランチロールにとっての今回のメリットはどこにありますか?

山口  「+Ultra」とスロウカーブさんのノウハウと力をお借りして、自分たちが実現したい作品の企画を立てていくのが一番のメリットです。それにフジテレビさんはアニメの歴史が長いので、業界で信頼を獲得していくなかでやはり力を借りるのは大きいです。最後はディズトリビューション(放送・配信)で、どうしても僕らは日本とアジアはできませんから、そこはいずれにしてもどなたかの力を借りなければならない。そのなかで企画からご一緒させていただけて、実績のあるフジテレビさんが最適なパートナーであった。この三点です。

■国境も越えた企画開発、クランチロールのデータも活用
――日本で強いフジテレビと日本以外の海外ネットワークで強いクランチロールの組み合わせは、強力かつ相性がいいですね。

  そういう側面はありますけれども、それ以上に山口さんがおっしゃったように企画開発をどうやっていくかの視点がうまく合いました。タイミングがよかったと思います。

――おふたりから企画の話がでたのですが、企画となるとスロウカーブの役割も大きいですよね。

尾畑  スロウカーブは全世界に向けてアニメを作り続けたいと考えています。マーケティングも含めて一緒に事業をやりきる環境が作れることが目標です。

  スロウカーブさんがいらっしゃることで、海外と日本をトータルで見た視点で海外のマーケティングを一緒に考えていけるのが大きい。どうしても国内と海外を切り離して考えてしまうので、ハブになって全体を統括するのは新しい試みです。スロウカーブさんはこれまでも「+Ultra」の企画にいろいろ参画してきたのですけれど、このタイミングで大きく表にでていただくのはうれしいです。「+Ultra」を立ち上げた時から尾畑さんとはいろいろとやらせていただいたので。

――企画会社は難しいですよね。アニメーション制作でなく、放送・配信やパッケージをだすわけでもなく。それだけにあまり知られにくいのですが、もっと知られていいと思われませんか?

尾畑  半々ですよね。全部知られたくないという気持ちもあります。分かっている人が分かっているのであれば、「何をやっている会社なのって」半分ぐらい謎を残しておきたい。ただ今回の取り組みで名前をだしていただいたのはありがたいなと思っています。

スロウカーブとは:
TVシリーズや劇場のアニメを中心にエンタテインメントとコンテンツの企画・プロデュース、宣伝、グッズ制作をする総合クリエイティブカンパニー。企画作品に『Revisions リヴィジョンズ』『LISTENERS リスナーズ』など。

――3社での企画開発はどんなかたちでやるのですか?

尾畑  お互いに企画を出し合って、どういう企画がよいかを話しています。クランチロールさんは膨大なデータをお持ちなので「海外でこれが見られています」とか。日本のドメスティックな作品と思えるけれど、実際に海外ではどうなんだろうとか。

山口  クランチロールのデータをもとにトレンドをみて、こういった企画がよいのじゃないかと立てたりします。逆に僕らから「日本からの視点でこの企画はどうなんだろう」といった時に、このチームのテーブルに乗せて、話をしたり。何をしたら日本のアニメファンを惹きつけるものになるのかなどをディスカッションしています。非常に楽しいなかでやっています。

尾畑  山口さん以外にも、クランチロールの現地プロデューサーにもオンラインで参加していただいて。

山口  向こうのプロデューサーにしても日本の制作現場にそこまで近くないので、日本側とディスカッションする機会はすごく貴重なんです。勉強になると喜んでいます。それはいままで僕らに足りていなかった視点なので、話し合いを通して勉強をしていけば数年経てば精度の高い企画がお互いにだせるようになってくると考えています。

――具体的にはどういったアドバイスがありますか?

  われわれも大枠では、これは欧米で流行っているといったことはキャッチアップしています。けれどもその作品のどこが現地で刺さっているのか細かいところは、そんなに分かってないんです。主人公のキャラクター性なのか、あるいは世界観なのか。日本で好まれていることと向こうで好まれていることとには、微妙に違いがあったりするんです。

山口  たとえばラブコメで、日本ではキャラクターが可愛いことで受けていたりするのですが、アメリカではストーリーがしっかりしているとかキャラがリアルだとか。同じジャンルでキャラクターが可愛いものをやるのに、それだとアメリカではちょっと難しそうだとか。企画の時点で突っ込んで話が出来るのですね。

■同等な立場でのパートナーシップ、企画参加を見据える
――いま実際に進んでいる企画はどういったものがありますか? 22年4月以降の「+Ultra」ですと谷口悟朗総監督のオリジナルアニメ『エスタブライフ』、「弐瓶勉×ポリゴン・ピクチュアズ新プロジェクト」があります。

  現在でている企画はクランチロールさんと話し合う前にラインナップされたものです。これらの企画でも「海外ではどうですか?」とかレビューをいただいています。まだ発表されていない企画ですと、「海外で翻訳されていない原作で人気がでるためにはどうしたらよいのだろうか」といったことを考えています。

――「+Ultra」枠の方向性もあるので、何でもやるというわけでないと思います。たとえば「萌え」みたいな作品はあったりしますか? クランチロールさんともやることも含めて、今後の作品の方向性は?

  なんでもありですよね。「萌え」をやらないといったことはなく、企画が面白ければジャンルは何でもいいと思っています。最初に考えた「ハイクオリティー」「ワールドワイドに届く」がぶれていなければ日常モノもありです。よく「SFとかハイファンタジーしかやらないでしょう」と言われますが、それは誤解で全然そんなことはありません。

――今回の枠組で製作出資のかたちはどうなっているのでしょうか? ケースバイケースなのか、クランチロールが世界独占ということで全体予算が見えてくるのですか?

山口  大変ありがたいことで、同等な立場でのパートナーシップを目指しています。弊社とフジテレビさんとの枠組です。

――製作委員会でなくてですか?

山口  2社での製作委員会を基本としますが、ただ国内の部分はそれをさらに分割することでより作品が広がることもありますので、それはフジテレビさんの考えになります。

  クランチロールさんに出資で入っていただくことで、企画にも加わっていただきます。出資をしていないと企画での発言もしにくくなりますので。

――収益を考えると、フジテレビにとっては他社配信会社とクランチロールに競ってもらったほうがよいかもしれません。なぜ最初からクランチロールなのですか?

  われわれには製作委員会方式のメリットが大きいので、そこの考えかたです。単純に配信権を買ってもらうだけでは宣伝の優先順位も落ちてしまいます。また作品を作った後での販売となると、作る時点では本当に海外に届く作品か自分たちのなかでしかありません。クランチロールさんに出資に入っていただくのは、そこの部分がクリアになるからです。初期の企画に「どうなんでしょう」とフラットに訊けます。宣伝でも作品への貢献が明確になると思っています。

――製作委員会のメンバーが多いと認知が広がりやすいと言われますが、製作委員会への参加企業を絞ることでプロモーションが足らなくなる心配はありませんか?

  そこはスロウカーブさんのプロモーションが強いですし、海外に対してはクランチロールさんがインフラを持っているのが強いですね。この3社であれば不安はありません。

――クランチロールの名前は知っていても、日本ではサイトや活動が見られないため、プロモーション力やファンへのリーチ力はなかなか判り難いです。

山口  日本のアニメファンにクランチロールが知られていないことは、僕らが今後は少しずつ変えたいと思っていることのひとつです。現在有料会員が500万人以上、登録ユーザーが1億2000万人以上いて、実はかなり大きいのです。あとはSNSのフォロワーが多いです。フォロワー数がクランチロールで6,000万人、更に今後ファニメーションのフォロワー数が合わさるとアニメのコミュニティでは群を抜いて最大級となります。クランチロールエキスポというイベントも自分達で主催していますので、非常にファンに近いところにいる。海外での力は胸を張れると思っています。
*ファニメーション=米国を中心に日本アニメの配信・流通・版権を手がける大手企業。2017年にソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに買収され、現在はファニメーション・グローバル・グループの一角。ファニメーション・グローバル・グループは2021年8月にクランチロールを買収した。

――この500万人の有料会員が受けるSVODサービスと、登録ユーザーが受けられるAVODサービスはどのように違うのですか?

山口  当たり前ですが広告が入る入らないの違いと、タイミングの違いが一番、大きいですね。基本的には有料会員にサイマル配信をして、大体一週間ほどでAVODに開放します。どのタイミングでAVODに開放するのがベストなのかは、今後も検証していくと思います。また他の多くのプラットフォームとクランチロールのビジネスモデルの違いも意外と知られていません。僕らはレベニューシェア型のビジネスモデルでアニメ業界を応援しています。クランチロールで多く見られることで、どんどん製作サイドに還元されていくのは大きな違いだと思っています。こういった事も今後積極的にみなさんに伝えていきたいですね。

■それぞれの会社の今後、方向性
――フジテレビでは「+Ultra」のほか「ノイタミナ」のアニメ枠もあり、キッズ・ファミリーでも大きな取り組みがあります。アニメは重要視していると考えていいのですか?

  フジテレビのなかでアニメは重要です。ゴールデンタイムでの長い歴史もありますし、「ノイタミナ」で枠ブランドを始めたのも民放のなかでは最初のはずです。そのうえでいまビジネスとしてアニメが無視できないものとなっていて、テレビ局としてアニメをどう作っていくかは非常に重要な課題になっています。

――『ワンピース』のような全世代的な大きな作品があり、「ノイタミナ」もある時に「+Ultra」はどういった役割が期待されているのですか?

  より世界に波及するものを期待されています。多種多様なプレイヤーと組ませていただくこと、チャンレンジがしやすいところもあるかもしれません。

――クランチロールではこれからも買付作品は多くあると思いますが、フジテレビさんのようなパートナーと組んで作品に出資していくことはこれから増えていくのですか?

山口  買付作品を減らしていく事はありませんが、出資作品の割合は増やしていきたいと思っています。今回の取り組みのように、私達が企画から深く関わる事で生まれる新しい方向性のヒット作を一つでも多く出して、全世界でアニメ市場の拡大を目指したいです。

――スロウカーブの今後のビジネスの方向は? そのなかで今回の枠組をどう位置づけますか?

尾畑  企画会社のバリューを上げていきたいです。企画会社やプロデュース会社にしかできない企画性やスキームを世界に向けて育成していくことです。その最たるパートナーが「+Ultra」ですが、他にもいろいろと組んでやろうと話しているところです。僕はアニメの「レジェンダリー・ピクチャーズ」になりたいんです。レジェンダリーは企画会社じゃないですか、なのにブランドがある。僕はレジェンダリーのロゴを見ると、どんな映画でもみたくなる。ワクワクする。そうしたポジションをアニメで取りたいなと思って、そこに向かっていく企画をしたいです。
*レジェンダリー・ピクチャーズ=米国の映画企画・製作の大手。『ダークナイト』『GODZILLA ゴジラ』『パシフィック・リム』など、ヒット作は数え切れない。

――本日はどうもありがとうございました。

「+Ultra」   https://plus-ultra.tv/
クランチロール https://www.crunchyroll.com/
スロウカーブ  https://www.slowcurve.co.jp/

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