【大型作品による業績のぶれを排除】
アニメ製作大手のIGポートが2022年5月期より、アニメなど映像作品の制作売上げ計上の方法と時期を大きく変更する。
これまでは制作が完了し、発注元に作品納品がされた時点で売上げを計上する「納品基準」を採用してきた。それを制作進行状況に応じて、毎月売上げと利益を計上していく「進行基準」に変更する。
会計基準の変更に伴いIGポートは、これまで仕掛残高としていた29億5900万円を、回収前の売上である売掛金に変更する。さらに想定利益2億5200万円も売掛金に振り替えた。
アニメや映像作品などでは、作品納品後に支払いが行われることが主流だ。このため売上げ計上は「納品基準」が一般的である。
そうしたなかでIGポートが「進行基準」を採用するのは、制作期間が長いというアニメ制作の特殊事情があるとみられる。アニメーション制作は企画から2、3年、実制作からも1年、1年半前から取りかかる一方で、納品まで資金の回収がない。
この結果2年、3年の間は費用が出る一方で、完成後いっきに大きな額の売上げが計上されることで業績が極端にぶれる傾向がある。「進行基準」を採用することで費用と売上げを平準化して、企業活動の実際に近づけるというわけだ。
とりわけ近年のIGポートの各アニメ制作会社の作品はプロジェクトが大型化しており、今後も業績のぶれが大きくなる可能性があった。このタイミングで新しい会計基準を導入した理由とみられる。
【「進行基準」導入で必要とされる対応】
投資家にとっては業績が平準化され理解しやすくなるが、新しいリスクも発生する。完成前に全体の売上げ、利益を想定して計上した場合、作品が実際に完成した時に金額にずれが生じる可能性があるからだ。
とりわけ制作費が想定を大きく上回った場合、これまでに計上した利益が取り消され、突然の損失が発生する。想定制作費の超過、特に費用を嵩上げする納品の遅れは避ける必要がある。IGポートはこれまで納品の遅れを理由に業績予想売上げをたびたび修正しているだけに、近年掲げている受注作品の確かな選定、予算組み、制作期間管理の精度をどれだけあげられるかが問われる。
【ウィットスタジオの黒字転換を目指す】
アニメ制作体制のプロジェクト管理が重要になるなかで、IGポートは連結子会社のウィットスタジオとシグナル・エムディが債務超過状態であることを明らかにした。ウィットスタジオは21年5月期に制作の大幅な赤字から債務超過を拡大した。
IGポートは「子会社管理プロジェクト」を今期から導入し、ウィットスタジオの黒字化を目指す。制作予算の精度向上と予算内での制作執行を徹底する。管理体制の強化を目的にIGポート執行役員の郡司幹雄氏が代表取締役副社長に就任、代表取締役社長の和田丈嗣氏をサポートする。
IGポート全体は2021年5月期の業績は、増収増益で好調であった。マッグガーデンによる出版事業が売上げと利益を大きく伸ばしていること、版権事業の好調が理由だ。ただし版権事業も会計方式を変更し、これまで複数年に分けて計上してきた「B: The Biginning」シリーズの版権売上げを一括計上したのも利益を引き上げた。「B: The Biginning」シリーズの売上の中心は配信プラットフォーム向けの配信権収入とみられる。
グループ全体としては経営に余裕があるなかで、多くのアニメ製作会社の課題である制作事業部門の改革に取り組むことになる。