フランスの“マンガ家”はなぜオタクになった? 日本でエッセイマンガを刊行

『フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった。』

 日本のマンガやアニメの人気や認知度がグローバルに広がるなかで、世界各地で日本マンガスタイルの作品を発表する作家が増えている。その震源地のひとつフランスで(日本スタイルの)マンガ作家として活躍するエルザ・ブランツさんの最新作が、2019年12月に日本で刊行された。『フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった。』(DU BOOKS)である。
 フランス作家によるマンガスタイル作品は、これまでもトニー・ヴァレントの『ラディアン』などが日本でも刊行されている。マンガスタイルが着実に成長して、海外に輸出され人気にもなっている証左だ。。

 しかし『フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった。』の違うところは、エッセイマンガであることだ。エッセイをマンガで描くのはフランスでは日本のように一般的でなく、ちょっとしたチャレンジだ。
 著者のエルザさんが、いかに日本マンガスタイルで作品を描く作家に成長したかを紹介したものである。子どもの頃のゴッコ遊びや、友だちと違った趣味、お小遣い、テレビ放送に間に合うように走って帰宅する……。さらに夫と子どもを持った現在のオタクな家族の様子まで。
 フランスだからというよりも、マンガやアニメのファンなら、むしろ誰でも頷いてしまうことのほうが多い。「世界のオタク文化に違いはない!」と思わせる。

 ストーリー全体を通してコメディタッチで、軽快に展開し、とても読みやすい。さらにもうひとつ、本書は右開きでストーリーを“Z”時方向で読み進める。これも日本の読者に読み易い理由だろう。
 「右開き、 “Z”時方向のストーリー展開」は日本でマンガに囲まれて育ったものに普通だが、これはフランスでは異色だ。バンドデシネだけでなく、ヨーロッパの一般的な書籍は常に左開きだからだ。実はシンプルに見える本書は、日本での翻訳出版も含めて、様々なチャレンジをしている。エルザさんは、それを感じさせることなく描き切る。それも含めて、本書は画期的だ。

 解説はフランス語翻訳家の鵜野孝紀さん。解説だけでなく、作品の要所にコラムを設けて、本編に連動したフランス事情を紹介している。フランスでのテレビアニメの放送や、マンガ出版について、イベント事情なども。「なるほど!」と思うだけでなく、マンガエッセイと連動しているのでスルスルを頭の中に入ってくる。フランスにおけるマンガ事情を知るのにもよい本となっている。

 最後の鵜野孝紀氏の解説によれば、こうした日本マンガスタイルの作品は現地では「マンフラ(Manfra)」と呼ばれているという。「マンガ」+「フランセーズ」を合わせた造語だ。
 『フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった。』のような作品が今後もどんどんと増え、「バンドデシネ」や「マンガ」と同じように「マンフラ」が普通の単語になっていけば、素晴らしいのでないだろうか。
 ディスクユニオンの紹介ページでは、本書の一部を試し読みすることも出来る。こちらでまず一読するのをお薦めしたい。

「フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった。」
エルザ・ブランツ DU BOOKS
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK235
1,200円(本体価格/税別) 2019年12月発売

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