アニメ製作のIGポートは、7月12日に2019年5月期通期決算を発表した。またこれに合わせて「子会社経営管理プロジェクト」のチームを発足、そして中期経営計画見直しの発表を延期した。いずれも昨今のアニメ製作環境の急激な変化を受けたものだ。
IGポートはプロダクション I.G、ウィトスタジオ、シグナル・エムディなどのアニメーション制作会社、出版のマッグガーデンを統括する持ち株会社だ。2019年3月まではジーベックも主要子会社としていたが、そのアニメーション制作事業の大半を今年4月に同業サンライズに譲渡した。2019年5月期決算は、ジーベックの事業も含んだグループ全体のものである。
その通期連結売上高は88億7200万円と前年同期比5.3%増だった。いっぽうで営業損失と経常損失が各3億700万円、当期純損失は1億7900万円と厳しかった。ジーベック事業の一部売却の特別利益があったが、アニメーション制作子会社で新たな減損損失を1億3500万円計上したのも響いた。固定資産の中で将来回収の可能性を検討した結果、減損が生じたとしており、制作管理面で引き続き苦戦している。。
損失拡大は主に映像制作事業で発生している。映像制作コスト増が主因で、受注金額と費用の逆転が起きているとみられる。IGポートはCG制作費や外注費の高騰、さらに制作期間の長期化をコスト増大の理由に挙げる。一部の作品では受注損失引当金を計上した。新規受注では現状に合った予算で受注を交渉しているが、アニメーション制作の契約は長期間に及ぶため、現状ではまだ充分に受注コストのバランスに反映していないとみられる。
映像事業の売上高は59億2500万円(28.9%増)と大きく伸びたが、営業損失が5億3800万円と大きかった。期間中の主力タイトルは『フリクリ オルタナ/プログレ』『バースデー・ワンダーランド』『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』『甲鉄城のカバネリ~海門決戦~』『ULTRAMAN』『進撃の巨人 Season 3』『フューチャーカード 神バディファイト』『風が強く吹いている』など。
版権事業は減収減益。売上高は14億5100万円(18.5%減)、営業利益は1億9000万円(72.3%減)である。売上は前年の『魔法使いの嫁』の海外販売に匹敵するものがなく、また映像マスターとコンテンツ資産の減価償却費の増加が利益を引き下げた。映像の製作投資が増大していることを窺わせる。
出版事業は売上高12億6600万円(27.0%減)、営業利益が1億3100万円(65.8%減)。前年のようなメディアミックス連動作品がなかったことが大きかった。
全体に厳しい決算だったが、IGポートは今期(2020年5月期)の業績予想では強気だ。売上高の見通しを108億3900万円と、22%の伸びを見込んでいる。主要子会社であったジーベックのアニメーション制作事業を売却していることを考えれば、かなり高い成長を目指すことになる。これはIGポートグループ各社が、アニメーション制作の受注をかなり多く持っていることを示してそうだ。営業利益、経常利益はそれぞれ約2億2000万円、当期純利益は1億3800万円と事業の好転を予想する。
一方で7月12日に予定していた中期経営計画見直し発表を延期した。映像制作事業のコストと損失の増大から、あらためて受注作品と生産体制を見直すためだ。また海外市場の環境変化も精査する必要があるとしている。
制作事業の収益化のための「子会社経営管理プロジェクト」を発足することも決めた。売上高は多く順調な伸びを示しているだけに、制作事業の利益化を実現すればグループ全体を再び成長軌道に乗せることは可能だ。今回発表された「子会社経営管理プロジェクト」の成果が、今後の経営の鍵を握ることになる。