米国で日本アニメが復調するなかで、これに合せて日本マンガの翻訳出版の販売も2012年を底に反転している。このタイミングで、日本マンガの翻訳出版社が新たに立ち上がる。2018年末に設立されるDenpa, LLC.だ。8月10日から12日までワシントンD.C.で開催されたOTAKONで、エド・チャベス氏が明らかにした。
発行人としてプロジェクトの指揮を執るエド・チャベス氏は、米国のマンガ業界のベテランで、前職は翻訳出版社のヴァーティカル・コミックのマーケティング部長である。ベストセラーとなった『チーズスイートホーム』や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の英語版の実現をするなど、作品の選択眼に定評がある。
Denpa, LLC.を設立するのはヤコブ・グレイディ氏で、成人マンガの翻訳出版の大手FAKKUの創設者である。新しい会社と共に新ビジネスに乗り出す。
設立発表にあたって、DENPAはすでに6タイトルの翻訳ライセンスを獲得している。『ぼくは麻理のなか』(押見修造)、『PEZ』(浅田弘幸)、『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』(福本伸行)、panpanyaの短編集『蟹に誘われて』、さらに村田連爾のアートブック『Futurelog』である。2018年暮れにまず『ぼくは麻理のなか』、『PEZ』を刊行、2019年初頭に『アカギ』が続く。
エド・チャベス氏がポップカルチャー業界誌のICv2に答えたインタビューによると、DENPAはこれまの翻訳出版ではあまり刊行されてこなかった少年マンガや少女マンガ以外の分野にフォーカスする。スタート時のライナップからもその傾向が読み取れる。
近年の日本ポップカルチャー人気の高まりで、日本マンガの翻訳出版は北米でも多い。しかし、読者層が若いことから出版タイトルのジャンルは偏りがちだ。さらに翻訳出版社の大手は、小学館・集英社系のVIZ Media、Kodansha Comics、KADOKAWA系のYen Pressと、日本の大手出版社系列で市場の大半を占めている。
そうしたなかで新たな独立系出版社の登場は、日本の多くの出版社にとっても朗報だ。同時に大手出版社にとっても、米国の自社レーベルでは個性が強過ぎる作品も、個性を売りにするDENPAでなら刊行できるかもしれない。DENPAは北米における翻訳日本マンガの可能性を広げることになる。
もうひとつ注目されるのが、今回新会社を設立するヤコブ・グレイディ氏のもうひとつの会社FAKKUだろう。同社は2006年に設立、「HENTAI MANGA」を掲げて日本の成人マンガの翻訳リリースを多く手がけてきた。海外最大の日本の成人マンガの出版社として大きな成功を収めている。こうした成功を受け、アダルトアニメなどにも進出するなど事業を拡張している。
今回は新会社の立上げにより、いよいよ一般マンガに本格進出する。異なるジャンルでの事業拡大を目指すことになる。