米国の映画業界団体の映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)がLinux財団(The Linux Foundation)と協力して、映画・アニメーション開発・制作のためのオープンソースソフトウェア(OSS)の開発に乗りだす。
2018年8月9日(現地時間)に、アカデミーとLinux財団はアカデミー・ソフトウェア財団(Academy Software Foundation (ASWF))の設立を発表した。創設メンバーにはアカデミーとLinux財団のほかに、VFX・アニメーション分野の有力スタジオ、IT企業などが名を連ねた。
スタジオからは、アニマル・ロジック(Animal Logic)、ブルースカイ・スタジオ(Blue Sky Studios)、ドリームワークス・アニメーション(DreamWorks Animation)、ディズニースタジオ(The Walt Disney Studios)、Wetaデジタル(Weta Digital)、エピックゲーム(Epic Games)、DNEGなど。さらにIT業界からシスコ(Cisco)、Google Cloud、インテル(Intel)である。さらに映像・CGツールを開発・販売するAutodeskやファウンドリー(Foundry)、SideFXの姿もある。かなり大掛かりなプロジェクトであることが伝わってくる
ASWFによれば新たなOSSは映画制作のための自由で中立的なものになる。映像、VFX、アニメーション、サウンドにおける技術で協力し、リソースを共有する。これにより映像制作者は、より多くのイノベーションやコラボレーション、クリエイティブを生みだすことになるという。それはアカデミーの理念に合致するものだとしている。
映画アカデミーは、毎年初春に発表するアカデミー賞の選考でお馴染みだ。しかし、協会の活動はそれだけでなく、映画業界の発展・振興のために様々な取り組みをしている。現在ロサンゼルス ハリウッド地区に建設中のアカデミー博物館もそのひとつである。ASWFではテクノロジーとクリエテイティブの活性化を目指す。
OSSは利用者が自由にソースコードを使用し、活用できるソフトウェアのことだ。通常のソフトウェアに較べて低いコストで導入できることが多く、自身の目的に合わせたカズタマイズも容易だ。
Linux財団は、Linuxを活用したOSSの普及とサポートを行っている。今回は映像制作の総本山であるハリウッドで、OSSを通じた成長を目指す。
ASWF によれば、現在ハリウッドのスタジオの8割以上はすでに何かのかたちでOSSを使用している。しかし様々なバージョンがあるOSSでの開発では総合管理やシステム運用、さらにガバナンスやライセンスモデルのあり方も含めて、普及には多くの障害がある。
しかし新たなOSSではこれらの問題が解決されるという。Linux財団によれば新OSSはVFXとアニメーションの開発者・エンジニアに驚くべきクリエイションを可能にする。現在はまだソフト方向性や詳細は明らかにされていないが、CG制作の基幹になるものを目指していることが分かる。さらに映画産業から広いメディア、次世代のイノベーションのクリエイティブに貢献するとしている。
気になるのは市販のCG制作ソフトとの関係だ。現在のCG制作ではAutodeskが開発・販売するMAYAや3ds MAXが支配的だ。新OSSがこれと競合するのか、補完関係になるのかは重要な点だ。
誰でも自由に使えるOSSはAutodesk商品と利益相反する可能性もあるが、AutodeskもASWFの創立メンバーだ。敢えてプロジェクトに協力することで、引き続き業界での存在感を確保する狙いがありそうだ。
ASWFは8月13日からカナダのバンクバーで開催されるSIGGRAPH 2018にも参加する。また基調講演で参加するILMのロブ・ブレドウがプロジェクトについて語る予定だ。