新海誠監督の3年ぶりの新作映画『すずめの戸締まり』の世界配給が、これまで以上の大きな取り組みになることがわかった。2022年5月19日、フランスのカンヌ国際映画祭にて、クランチロール、ソニー・ピクチャーズ、そしてフランスの大手映画会社ワイルドバンチが共同で世界配給を手がけると発表した。17日から開催中のカンヌ国際映画祭にて最終合意したという。
契約では北米(米国・カナダ)はクランチロールが単独配給、仏語圏・独語圏のヨーロッパはクランチロールとワイルドバンチ、ソニー・ピクチャーズの3社共同配給、ラテンアメリカとオーストラリア/ニュージーランド、中東はクランチロールとソニー・ピクチャーズの共同配給とする。今回の契約では中国や東アジア、東南アジアは含まれない。
『すずめの戸締まり』は、『君の名は。』(2016)、『天気の子』(2019)を大ヒットさせた新海誠監督の最新作だ。アニメーション制作のコミックス・ウェーブ・フィルム、企画会社STORY、東宝などが共同製作する。国内では今年11月11日に全国公開となる。期待の大作だ。
新海作品はこれまでも世界各国で劇場公開されてきたが、アジア圏に較べると欧米など他地域の興行は作品の評価に較べると弱かった。今回の契約でアジア圏が除かれたのは、アジア圏では従来の取り組みで引き続き大きなヒットを狙う意図がありそうだ。
他の地域では、これまで北米、ヨーロッパ各国、オセアニアなどバラバラに契約していた配給権を一元化することで、グローバル規模の戦略と大きなヒットを目指すことになる。とりわけグローバル配給の取り組みにハリウッドメジャーのソニー・ピクチャーズ、ヨーロッパを代表するワイルドバンチが加わったことは大きい。
さらに注目されるのは、今回の取り組みの中心がクランチロールとなった点だ。クランチロールはソニー・ピクチャーズとアニプレックスの共同出資会社で、ソニーグループのグローバルでのアニメ展開の戦略会社の位置づけにある。
一般的にはアニメの動画配信会社として知られるが、同じソニーグループのアニメ会社ファニメーションと経営統合し、ブランドをクランチロールに一本化した。旧ファニメーションはアニメの劇場配給を得意としていた。「ドラゴンボール」シリーズや『僕のヒーローアカデミア』の劇場各作品を北米でヒットさせるなど劇場配給に実績がある。そうした経験を北米で活かす。
一方でこれまで実績のなかったヨーロッパやオセアニアでは、グループ会社のソニー・ピクチャーズ、さらに老舗のワイルドバンチの力を借りる。今後の北米以外の地域への事業拡張の布石ともなりそうだ。
日本のアニメ映画は吹替えや字幕翻訳、契約などの関係もあり、他国では日本公開から時期が大きく遅れてリリースされることが多い。しかし今回のように早い段階での契約は、世界公開のタイムラグも縮まることになりそうだ。発表では主要国では2023年の早い時期の公開を目指すとしている。