広告代理店大手のADK(アサツー・ディーケー)は、2016年7月14日からアニメ製作会社ゴンゾに対する株式公開買付けを開始した。8月22日までの期間中に、総株数の最大99.04%、最低80.22%の買付けを目指す。しかし、公開買付けにあたっては、株式の80.22%を所有する最大株主であるいわかぜ1号投資事業有限責任組合を運営するいわかぜキャピタルから応募の同意を得ている。このため8月中には公開買い付けは成立する見込みだ。ゴンゾの代表取締役の石川真一郎氏は引き続き持ち株を保有し、子会社化後もゴンゾの経営に携わる。
公開買付け価格は1株26819円、買付け代金は約62億4000万円を予定している。買付け価格は2009年7月の東証マザーズ市場における同社の上場廃止日の終値704円を大幅に上回った。これは上場廃止後のゴンゾの業績が安定化していることを示していそうだ。
ゴンゾはガイナックス出身のスタッフが設立した(旧)ゴンゾと、コンサルティング会社出身の石川真一郎氏が設立したディジメーションを母体に誕生。新進のアニメ製作スタジオとして、2004年に東証マザーズ市場に上場した。 (上場はGDH)。クオリティの高い作品に加えて、新しいファイナンスの仕組みを活かした経営手法で上場から2007年にかけて急成長した。
しかし、急激な多角化戦略の躓いたことに加えて、得意とした海外市場の失速で、2007年から2009年まで巨額の赤字を計上し、上場廃止に追い込まれた。上場廃止後は事業規模を縮小しながら収益化を実現、2011年以降は持続して経常利益を計上している。
一方、今回、アニメ関係者を驚かせたのは、62億円超の買収価格である。年度ごとの収益は改善しているが、ゴンゾは依然、債務超過にある。ADKは子会社後に、資本増強をしなければいけない可能性が高い。これを含めたADKのゴンゾへの投資は、買収金額をさらに上回るとみられるからだ。
同業他社では、8月4日の段階で東映アニメーションの時価総額が763億円、IGポートが約50億円である。売上高はそれぞれゴンゾの22倍以上、5倍以上となっている。M&Aでは2010年に株式交換でセガサミーホールディングスの子会社となった際のトムス・エンタテイメントの評価額は150億円程度、4月にイマジカ・ロボットグループがオーエル・エムを子会社化する際の評価額は約59億円となっている。また、日本テレビ放送網がタツノコプロの株式の過半数を取得した時の取得価額は、日本経済新聞にて数億円規模と報道されている。
これまでのアニメ企業の取引価額、そして上場アニメ企業の時価総額に比較してゴンゾの公開買付価格は割高ではとの指摘は少なくない。この鍵は、直近3年間の利益率にありそうだ。
ゴンゾの売上高は2007年3月期に87億1200万円に達した。しかし、経営再建が本格した2010年以降は事業を急縮小、売上高は10億円台の中堅アニメ会社の規模にとどまっている。一方で、当期純利益は2014年が4億4000万円、15年は4億300万円、16年は4億9100万円と高い利益率を実現している。収益性の高い企業との評価だ。
そしてこの収益は、事業規模が大きかった2000年代半ばに積極的に製作投資したことが大きい。ゴンゾは同規模のアニメ会社に比較して、自社が権利を保有し、権利コントロールできる作品が豊富である。そうした作品のライセンス関連の売上げは無視できない大きさだ。同時に、こうした作品のストックが会社の資産として評価されたともいえる。
実際にADKは子会社化によるシナジー効果として、第一にゴンゾが権利を保有するアニメ作品の活用を挙げている。海外配信業者への販売、海外販売向けのラインナップの充実を図るという。
これとは別の買収の目的は、アニメーション制作の現場の確保である。ADKは2015年には、アニメ製作会社ディーライツを子会社化するなど、これまでも得意としてきたアニメ事業のさらなる拡大を目指している。しかし、現在、国内ではアニメーション制作のニーズが拡大しており、有力スタジオの多くはフル稼働状態である。アニメ企画があっても、制作に入れない状態も起こりうる。ADKは既に子会社としてアニメーション制作会社のエイケンを持つが、同社は『サザエさん』に代表されるファミリーアニメが中心となっている。ゴンゾの子会社化には、スムーズながアニメーション制作を実現する狙いもあるだろう。
アニメ業界で大きな存在感を持つADKと、かつての有力アニメ製作会社と結びつく。これが今後どのようなビジネスに発展するのか、関心を集めそうだ。