「アニメの仕事は面白すぎる」、創生期から現在まで現場から語る一冊

アニメの仕事は面白すぎる

 これまでにも、アニメの歴史を語る本は少なくない。しかし多くの本は特定の時代、例えば日本のアニメ草創期だったり、2000年代だったりにフォーカスしている。それはアニメには、商業アニメが本格的立ち上がった1963年のテレビアニメ『鉄腕アトム』からでも57年もの歴史があるからだ。
 ところが2019年12月に出版ワークスから刊行された『アニメの仕事は面白すぎる 絵コンテの鬼・奥田誠治と日本アニメ界のリアル』は、まさに1963年から2019年までのアニメ業界を描いている。それは著者である奥田誠治氏がアニメの仕事を始めた年、そしていまだ卓越した仕事を続けているためだ。『アニメの仕事は面白すぎる』は、奥田氏の回顧録なのである。

 奥田誠治氏は1943年生まれ、映写技師を経てアニメ業界にはいり、TCJ(現エイエケン)、タツノコ、アートフレッシュなどで活躍した後、フリーとして多くの作品に参加した。とりわけ絵コンテの仕事は膨大で、本書に掲載された仕事リストの量は目が眩むほど。
 それだけにそこに登場する作品タイトルや人物の数もかなり多い。よく知った作品から、少しマニアックなものまで、奥田氏がいかに猛烈な勢いで仕事に取り組んできたことが分かる。

 ただ膨大な固有名詞も、ひとつひとつに注釈もついているのがありがたい。若い世代でも安心して読めるし、アニメについてもっと知りたいという人には、ナビゲーションの役割も果たすかもしれない。
 逆に古くからのアニメファンには、驚きの連続に違いない。いまでは伝説、なかには故人となられたアニメーション制作スタッフを巡る数々の逸話がたっぷりだ。完成した作品やスタッフクレジットやデータからは作品は見えても、スタッフの人としての姿はなかなか見えてこない。知られざるスタッフが描かれている。

 作品についても同様だ。『まんが日本昔ばなし』の誕生にまつわるエピソードなど、今だから明かせる作品にまつわる裏話のひとつひとつが興味深い。
 個人的には、アニメ史のなかでは重要でありながら、あまり注目されていない出来事に触れているのが面白かった。新しい制作手法に挑み歴史に消えていったJCGL(ジャパン・コンピュータ・グラフィックス・ラボ)、ヨーロッパとの合作アニメ、ANKAMA Japanの日本進出と撤退など。現場から貴重な体験である。

 それだけに時には、ここまで書いてしまっていいの!? と、ドキドクするざっくばらんな物言いは驚かされる。しかしそれが本書の魅力であり、そして著者・奥田氏の魅力になっている。『アニメの仕事は面白すぎる』の最大の読みどころは、60年近くにわたりアニメ業界でサバイバルしてきた奥田氏自身にある。
 アニメ業界が昔に較べてシステマティックに動くようになった現在は、その生き方を真似るのはなかなか困難だ。ただ自身の仕事に誇りを持ち、常にアグレシッブに前向きに進んでいく。こんな姿勢は時代や、業種を超えていつでも求められているのではないだろうか。

「アニメの仕事は面白すぎる 絵コンテの鬼・奥田誠治と日本アニメ界のリアル」
奥田誠治
出版ワークス 1800円+税

アニメの仕事は面白すぎる 絵コンテの鬼・奥田誠治と日本アニメ界のリアル

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