アヌシー映画祭長編グランプリに「I Lost My Body」日本勢は受賞を逃す

アヌシー国際アニメーション映画祭

 6月10日に始まったフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭は、15日夜の授賞式/クロージングセレモニーと共に幕を閉じた。映画祭注目の各賞もこの場で発表され、受賞作に選ばれた関係者の喜びの歓声で沸き上がった。
 とりわけ注目の高い長編部門コンペティションでは、フランスのジェレミー・クラパン監督の『I Lost My Body』がグランプリにあたるクリスタル賞に輝いた。短編部門は、ブルーノ・コレット監督の『Memorable』がクリスタル賞を受賞した。
 2019年は日本からは長編、長編Contrechamp、短編、短編Off-Limits、テレビ、受託作品の各部門でノミネートされたが、いずれも受賞は逃した。公式上映では好評を博したが、映画祭のハイレベルなラインナップを感じさせた。

 長編グランプリの『I Lost My Body』は、切断された青年の手が自らの本体を求めて彷徨いつつ青年の人生を描きだす意表をついたストーリー。クラパン監督にとっては初の長編だが、2週間前のカンヌ国際映画祭監督週間のグランプリに続く大きな栄冠となった。アヌシーでも映画祭中から最有力候補の声が高く、前評判どおりの結果となった。本作は観客賞も同時受賞し、映画ファンにも広くアピールする作品であることを示した。
 長編部門審査員賞は、サルバドール・シモ監督の『Buñuel in the Labyrinth of Turtles』。スペインとオランダの共同製作で、スペインを代表するシューレアリストの映画監督・ルイス・ブニュエルの『糧なき土地』の制作を辿ったドキュメンタリーアニメーションである。近年のドキュメンタリー作品に対する注目をあらためて確認させた。長編Contrechamp賞は、ラトビアのギンツ・ジルバロデス監督の『Away』だった。

 短編部門グランプリの『Memorable』もフランスからだ。ストップモーションと3DCGでおよそ8分、アルツハイマーになった年老いた画家とその妻の経験するイマジネーションを映像として描いた。こちらも観客賞も同時受賞している。
 審査員賞は、カナダ・フランス・ポルトガル共同製作の『Tio Tomás – A contabilidade dos dias』(Regina PESSOA監督)。審査員特別賞はフランスの『My Generation』(Ludovic HOUPLAIN監督)とアルゼンチン・フランス共同製作の『Pulsión』(Pedro CASAVECCHIA監督)となった。
 アヌシーではこれらも含めておよそ20もの賞が設けられている。各賞は映画祭の公式サイトで確認できる。(https://www.annecy.org/news:a2538)

 2019年のアヌシーは日本特集や米国の大手スタジオや配信会社の積極的な活動、国際見本市MIFAの拡大で、従来より商業面でアピールが強くなった。しかしこれに対して映画祭は、より芸術性を求めている印象を受けた。受賞作品、そしてコンペティション作品は社会的な側面を求めた政治、家族、心の奥底といった題材にスポットを当てたものが多かった。
 日本作品の多くは映像の驚きやストリーテーリングに優れているが、映画祭の潮流とはやや方向性が異なる。同時にそうした異なる個性が、映画祭で日本がとりわけ注目される理由なのかもしれない。

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