ハードボイルドなルパン登場の理由「LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘」浄園祐プロデューサーに聞く

浄園祐プロデューサー

 2019年5月31日より、『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』の劇場上映がスタートする。ハードで危険な雰囲気を漂わす「LUPIN THE ⅢRD」シリーズの第3弾だ。
『次元大介の墓標』、『血煙の石川五ェ門』に続く本作では、危険と魅力を兼ね備える峰不二子にフォーカスする。父親が横領した5億ドルのカギを握る少年ジーンと逃亡する不二子の真の目的は? 

 監督は映画『REDLINE』で高い評価を得た小池健。「ルパン三世 PART4」でシリーズ構成・脚本を務めた高橋悠也の脚本、音楽はジェイムス下地。作品にこだわるスタッフが並ぶ。アニメーション制作をテレコム・アニメーションフィルムが担当し、近年の「ルパン三世」シリーズに欠かせない浄園祐プロデューサーがプロジェクトをまとめ上げる。
 その浄園プロデューサーに、近年の「ルパン三世」シリーズと、そのなかでの「LUPIN THE ⅢRD」シリーズと『峰不二子の嘘』の位置づけについて伺った。
[取材・執筆 数土直志]

■『GREEN vs RED』からスタートしたハードボイルドな『ルパン』
―― 「ルパン三世」のプロデュースに関わり始めた作品はどこからになりますか?

浄園祐プロデューサー(以下、浄園)  アニメーションプロデューサーは2000年代からテレビスペシャルもやっていますが、自分で企画を出してハンドリングし始めたのは2005年にOVAでリリースした『ルパン三世 GREEN vs RED』からです。

―― 『GREEN vs RED』では、かなりハードなイメージにガラッと変わりました。その路線が今回の「LUPIN THE ⅢRD」シリーズ『峰不二子の嘘』までつながっていると思いました。

浄園 ルパンのアニメーションで傑作を作りたいと野望を持っていました。

―― 理想の『ルパン』みたいなものがあったのでしょうか?

浄園 ありましたね。モンキー・パンチ先生のハードボイルドな『ルパン』を描きたいと思っていました。『ルパン』を好きな人、影響を受けた人がたくさんいるのですが、僕はそういうかたにやって貰えないかとオファーをしてもなかなかやって貰えないことがあったんです。「僕の好きなルパンはあれだ」とか、「影響されたところが違う」と。
少し前のカッコいいテーストの『ルパン』にすればそういう人たちがやってくれるんじゃないかというところです。自分が何かをやりたいよりも、凄いクリエイターと『ルパン』を作りたいから始まっています。

―― 今回の「LUPIN THE ⅢRD」シリーズ小池健監督ですが、小池監督にもやはりお声がけするかたちですか。

浄園 僕は小池さんにずっとやって欲しかったんです。本作より前に山本沙代監督と『LUPIN the Third -峰不二子という女-』(2012)を作ったのですが、山本さんは間違いなく「キャラクターデザインに小池さんを」と言うと思っていました。小池さんは当時『REDLINE』が終わったばっかりだったので、時期的にもいいはずと。山本さんが小池さんを指名したんです。

―― キャラクターにフォーカスを当てたエピソードを劇場上映で重ねていくやりかたは最初から決まっていたんですか?

浄園 最初は全く決まってなかったですね。OVAの扱いで、『GREEN vs RED』に近い感じでした。とにかく小池さんで純度100%のフィルムを作りたい。だから一回やらせて欲しいと。

―― 通常の劇場映画よりはちょっと尺も短いし。テレビシリーズとも少し違いますね。

浄園 でも前後編それぞれ20数分弱なので、実はテレビフォーマットなんですよ。テレビシリーズ2話ぐらいの尺なんです。だから放送してもいいんじゃないかと最初は思っていました。ただテレビのスケジュールですと、小池さんは難しい。絵コンテ切って作画監督まで全部カットを自分でやるかたなので、テレビサイクルにはどうしても乗りません。

―― 今回のような映像には仕上がらない。

浄園 どうしても時間を切ってしまいます。OVAであれば時間の調整もできるし、それを繰り返し出来たらというのはありました。

―― 次元大介、石川五ェ門、そして峰不二子で3作目。みなさん次も期待していると思いますが。

浄園 やりたいつもりです。3本目まで到達しましたので。最初はそこまで考えてなかったんですよ。

■若い人たちに『ルパン』をみてほしい
―― テレビシリーズも第4シリーズ、第5シリーズとここ数年活発化しています。これは何か理由があるのですか?

浄園 ここ数年『ルパン』盛り上げていこうとなっています。30年テレビシリーズをやってなかった代償は大きかったんです。僕もそうですけど、40代、50代は、子どもの頃テレビで『ルパン』は放送されていました。ところが今の子たちはテレビで観る習慣がないんです。『ルパン』の名前は知っているけど、知ったつもりになっているだけですよね。新しいものを見せ続けないと。だから若い人たちに『ルパン』を視聴習慣としてみていただきたい。

―― ただ『ルパン』の世界のキャラクターとか、人間関係はみんな最初からわかってますよね。

浄園 そこは『ルパン』の凄くいいところで、例えばテレビシリーズ第1話なのにルパンが「よう、次元」って台詞を作れる。五ェ門がスッっと後ろから現れても何の違和感もない。普通であればキャラクターの説明で最初の10分ぐらい。1話の最初はそういうシーンで、後半から2話に繋げるための盛り上がりを作るところでだいたい終わっちゃう。

―― 『峰不二子という女』や、今回の小池監督のシリーズ、そしてテレビシリーズに、あとテレビスペシャルもあります。これらの世界は繋がっているのですか? 並行世界と考えたほうがいいのでしょうか?

浄園 それぞれの制作者は整合性をつけてないんですけど、『ルパン三世』である以上勿論繋がっています。今回の「LUPIN THE ⅢRD」シリーズも過去の『ルパン』のシリーズのこの辺っていう裏テーマを持ってます。
ルパンファンがみると前作の『血煙の石川五ェ門』でも会話でわかるんですよ。例えばルパンが次元に対して次元と言わずに「次元大介」って言っているところから始まります。それは今の関係ではないじゃないですか。「よう、次元」で終わるのに。例えば銭形のこと「とっつあん」って言えるルパンがあるじゃないですか。「LUPIN THE ⅢRD」シリーズは「銭形」って、呼び捨てるわけですよ。そこにまだ何かみんなの距離感がある。

―― すると今回のシリーズは、むしろその距離感があるところが見所になる。

浄園 そうですね。旧来のファンがみれば「そうそう、これこれ」っていう。例えば今回の『峰不二子の嘘』の中で、次元が「そんな奴だったらやっちまおうぜ」と言う。本来の彼らってそういう人なんです。「幾ら儲かるんだ、おおよしやっちまおうぜ」という生き方をしている。不二子だってそうですよね。最後はお金を貰ってサヨナラ。なんだけど、「ちょっとそこに本当はドラマがあるよね」っていうのをみせたい。

―― 今回は不二子はいいとこもあるんだけど、結局は彼女は悪女だったよねっていう終わりですよね。

浄園 もちろんそうです。それが不二子ですからね。

■モンキー・パンチ先生も「これは歴史に残る」と話した「LUPIN THE ⅢRD」
―― 先日モンキー・パンチ先生が残念なことに亡くなられました。生前の先生はアニメをどのように見ておられたのですか?

浄園 原作者としての立ち位置です。原作者として僕らに『ルパン』を許諾してくれている。通常は僕らがこういう風に見せたいというものを「面白そうだね、頑張って」って言ってくれる。
これまでの「次元大介の墓標」「血煙の石川五エ門」もご覧になり感想もいただいてます。『次元大介の墓標』はトムスの試写室に来てくださっていました。その時は「凄く期待してる」っていうコメントはいただきました。「これは『ルパン』の歴史に残る」という言葉をいただいたので続けてこられたと言っても過言じゃないと思います。

――小池監督のこのシリーズに対しては、どういう感想を持たれていたんですか?

浄園 小池さんが描いた『峰不二子という女』のもとになるデザインを持っていった時から先生は凄く応援してくださいました。自分の絵を踏襲しながら新しいデザインになっていることに凄くシンパシーを持って、好感は持っていただいたのではないかと思います。

―― 今回は数ある『ルパン』の中でもモンキー・パンチ先生のイメージに一番近い気がします。

浄園 そこは僕らも意識しています。50分の尺もそうした意味があります。あんまり長いとダレますので。今回は銭形も五ェ門も出て来ません。全部満遍なく出すのはシナリオ上は難しいんです。先生の漫画もそうなんです。展開からオチまでがあっという間に終わっちゃうぐらいのスピード感です。そこにきっと『ルパン』の本来のカッコよさとか、展開の面白さがあるはずだと思っているんです。「え、もう終わっちゃったの?」って感じがちょうどいいと思っています。

―― 最後にプロデューサーとして『ルパン』の魅力、ここが長年愛される理由だろうというのを教えてください。

浄園 『ルパン』は僕らが子供の頃に背伸びしてみてたアニメなんですね。当時からけっして子供向けに作ってない。僕らは何かカッコいいと思って『ルパン』をみていたし、『ルパン』じゃなきゃ出せないものがあって、それは生き様のカッコいい人たちのドラマです。
今回のシリーズはそのつもりでやっています。今の人たちに「ルパンってカッコいい」と認識させたい。これまで『ルパン』を好きでいてくれた人たちには「そうそう、これこれ」って言って欲しい。
泥棒でもジャケットを着ていくとか。生き様がやっぱカッコいい。好きよりも憧れる存在。可愛いとかいい人だけではそういう感情って生まれなくて、悪い人こそ好きになっちゃう感覚はどこかあるじゃないですか。ハラハラ感やドキドキ感とか、僕らが普段忘れているそんな部分を、ルパンは生きている。そこが「ルパンっていいな」と思って貰える要素だと思っています。

『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』
5月31日(金)より新宿バルト9ほか限定劇場公開
共同配給:ティ・ジョイ、トムス・エンタテインメント

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