海外最大の日本アニメ配信プラットフォームのクランチロール(Crunchyroll)が、メディア大手のワーナー・メディア (Warner Media)のグループになることが分かった。2018年8月7日(現地時間)、米国の大手通信会社AT&Tは、メディアコングロマリットのチャーニング・グループ(The Chernin Group)との共同出資会社であるオッター・メディア(Otter Media)の全株式を取得したことを発表、完全子会社化した。
オッター・メディアは2014年に、AT&Tとチャーニングが共同出資したデジタルメディアの戦略会社。主要事業にクランチロール、映像クリエイター支援・マネジメントのフルクルリーン(Fullscreen)、アニメーション・ゲーム制作のルースター・ティース(Rooster Teeth)などを保有する。完全子会社化により、オッター・メディアの経営はワーナー・メディアに移管される。AT&Tは2018年6月15日にワーナー・メディアを子会化、経営統合したばかりだ。
AT&Tは米国最大の通信会社、その歴史は1877年設立の世界最古の電話会社ベルに辿れる名門だ。現在は通信とメディアの融合を目指しており、850億ドル(9兆4000億円)を投じたワーナー・メディア買収はその最大の挑戦だ。ワーナー・メディア傘下には、ワーナー・ブラザース、HBO、ニューラインシネマ、ターナー・ブロードキャスティング、DC コミックなどがある。
オッター・メディアの完全買収はかねてより噂されていたが、より大きな買収案件であるワーナーとの経営統合浮上で棚上げされていた。これが完了したことでいよいよ実現し、さらに映画・テレビ・コミックの巨大企業であるワーナーとオッター・メディアが結びつくことになった。AT&Tは映画、テレビに加えて、インターネットの動画サービスでも拠点を築くことになる。ワーナー・メディアは、オッターとデジタル配信分野での協業を目指す。
日本のメディア関係者に注目されるのが、オッター・メディアの主要事業のひとつクランチロールの事業の行方だろう。クランチロールは2006年に日本アニメ専門の動画配信ファンサイトとしてスタート、その後米国のベンチャーキャピタルや日本のテレビ東京の出資を受けることで正規配信企業へと成長した。
2013年にチャーニングのグループ会社となり、2014年にAT&Tとの合弁会社オッター・メディアに再編された。現在はオッター・メディアの子会社イレーション(Ellation)の事業部門となっている。オッター・メディアにとっては、フルスクリーンと並ぶ主要事業である。
日本アニメが専門ではあるが、定額見放題課金会員だけで100万人、熱心な視聴者が多いとされるクランチロールはオッターとワーナーにとっては魅力的な映像配信プラットフォームになる。今後はクランチロールのノウハウを他の分野に広げていく可能性もありそうだ。
近年、米国における日本アニメ・マンガ関連企業の再編が続いている。2017年7月に日本アニメ配給の大手ファニメーション(Funimation Productions)がソニー・ピクチャーズに買収されたのに続き、クランチロールがワーナーへと、いずれもハリウッドメジャーの傘下に入った。
またマンガでは小学館・集英社系のVIZ Mediaの勢いが増し、2016年に現地の有力企業エン・プレス(Yen Press)がKADOKAWAグループとなっている。日本アニメ・マンガでも、日米の大手企業がぶつかり合う時代に変りそうだ。