『「おそ松さん」の企画術』、ぴえろ創業者・布川郁司の説得力


7月26日に、集英社より『「おそ松さん」の企画術 ヒットの秘密を解き明かす』が刊行された。著者は国内有数のアニメ会社ぴえろの創業者で取締役最高顧問の布川郁司氏である。布川郁司氏は、1979年にぴえろを設立、『うる星やつら』『魔法の天使クリィミーマミ』『NARUTO -ナルト-』などの数々のヒットアニメを世に届けてきた。
業界の重鎮の本となると、昔の話が中心で現在には少しそぐわないのではと思う人もいるかもしれない。ところが本書ではアニメ業界の「いま」について語られている。時代の流れに敏感だからこそ、ヒットを生み出し続けるのだと当たり前のことにまず感心させられる。タイトルに『おそ松さん』を掲げ、これを切り口にするのも、それが現在のアニメを象徴する作品だからこそだ。

一方で、本書のテーマである「アニメ企画」は一般的にはやや判り難い存在だ。アニメ関係者に企画がどこで生まれるかを聞いても、あまりにも様々で一貫性がないように思えることも多い。
しかし、布川氏はここで語るのは、そもそも企画とは何か、どうあるべきかという根本の部分だ。これは分かりやすい。
例えどんなかたちで企画が生まれようと、本質的に求められることは同じなのである。「企画は理論武装より熱」「よい企画の条件は“匂い”」といった言葉がそれを表している。さらにそこからアニメ企画をいかに運ぶか、ヒットさせるか、プロデューサー論に入っていく。
このなかには含蓄に満ちた言葉が溢れているのも魅力だ。
「1%の熱狂的なファンを生む作品とは、1%のファンに媚びる作品ではありません。」
「1人あたりのファンが使ってくれる金額は、むしろ増えていると感じるほどです。」
といった具合だ。

もうひとつの読みどころは、布川氏から見た新しいアニメビジネスの潮流である。例えばネット配信では、視聴率からも自由になる、新しい制作費を集めることができる、インフラが変わっても変化に対応するだけと。ライブエンタテインメントでは舞台からさらに劇場や美術館の可能性にふれる。全体に流れるのは、ポジティブで積極的な考えかただ。これもテレビアニメ、OVAと長年、業界に関わってきた布川氏だからこそ説得力が増す。
そしてアニメ企画に求められるのは、普遍的な真理と、同時に新しい時代に果敢に挑むことだと伝わってくる。

メッセージは熱く、重量級だが、本書はトータルで170ページあまり、字も大きめだ。書かれた文章も口語体で軽やか。まるで布川氏が目の前にいて語りかけてくるようで、読みやすい。
ここにも出来るだけ多くの人に読んで欲しいという、エンタテインメント業界に生きる布川氏ならではの思いが伝わってくる。手軽に読める一冊としてもお薦めだ。

「おそ松さん」の企画術  
ヒットの秘密を解き明かす

著者:布川 郁司  
定価: 1,200円(本体)+税
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-786072-6&mode=1

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