「21世紀のアニメーションがわかる本」、土居伸彰氏は示す新しい世界の見方

「21世紀のアニメーションがわかる本」、土居伸彰

 2017年9月に土居伸彰氏が上梓した「21世紀のアニメーションがわかる本」のページを開いた時に、軽い驚きを覚えた。“現代アニメーションの見方をアップデートする、まったく新しいアニメーション入門”を掲げる本書は、それを示すにあたり、まず『君の名は。』、『この世界の片隅に』、『聲の形』から話を切り出したからだ。
 もともと土居氏は、ロシアのアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインの研究家でその名前を知られるようになった。アートや短編、インディの映像の専門家と思っていたからだ。しかし、こうした僕の思い込みこそが、土居氏が本書のなかで疑問を投げかけるアップデートすべき対象そのものなのである。

 土居氏は言う、「だが、2010年代、両者の境界はぼやけてきた。2013年代頃から、個人制作、短編作品、海外作品を語るためのロジックが、日本の劇場用長編作品にも当てはまるように感じられてきたのだ。」。
 確かに、アニメーションの作り手が現在の社会の有り様を作品に何かしら反映するのだとしたら、そこには長編・短編、商業・アートといった違いはないはずだ。そうした境界が近年、特に曖昧になっていることは、アニメーションに触れる多くの人が無意識に感じている。大家と言われたアニメーション作家が長編アニメーションを撮り、劇場公開される。芸術大学の学生の作品にテレビアニメの影響が見られたりする。

 敢えて日本の劇場アニメ3作品からスタートし、論点を世界各国の長編アニメーション、そして短編アニメーションに広げていく。それは全て地続きというわけだ。そして最後は湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』、『夜は短し歩けよ乙女』で締めくくる。
 アヌシー、オタワのふたつの映画祭でそれぞれグランプリを受賞した作品は、長年、大人数の商業アニメで創作してきた湯浅監督が、それよりも遥かに人数の少ない自身のスタジオ サイエンスSARUで生みだした。そこには商業アニメ側からの作家性の獲得が見られる。これを最後に持ってきたのも、土居氏からのメッセージであるのだろう。

 では、本書のなかで土居氏が掲げる新たな見方とは何なのだろうか? まずは作品の分類だ。制作予算ごとに、小規模作品/中規模作品/大規模作品とする。ここでは芸術性や商業性といった考え方を排除して全ての作品をここに落とし込んでいく。
 また2000年代以降の重要な要素として、従来のアニメーション自体を目的とした「伝統」と、表現のいち手段としてアニメーションを選択する「部外者」という立場を置く。「部外者」が新たなアニメーションの表現を獲得する原動力になっていると説明する。
 作品の内部については、従来のアニメーションは「私」とそれに対する「世界」で作られてきたとする。一方で21世紀は、「私」と「世界」は対立せずに、「私たち」として一致していくのだと。それが『君の名は。』なのである。
 
 もちろん土居氏のこうした分類、あるいは「私」、「世界」、「私たち」の考え方は、人それぞれの作品の解釈が異なれば、必ずしも有効ではないとの批判もあるかもしれない。あるいは、むしろこう考えるべきでは? とのアイディアも成り立つだろう。
 しかし土居氏は、最初からそうした批判は承知なのでないかと思われる。重要なのは、21世紀に入り、従来型のアニメーションを考える軸がすでに通用しないとの事実を明らかにすることでないだろうか。アート対商業、作家対大規模スタジオ、そうした2項対立は、存在しないのだと。

 土居氏は、長い間ふたつに分断されてきたアニメーションの世界を統合し、映像表現としての“アニメーション”をひとつの方法論で説明する。それは土居氏の中の空想の産物ではない。まさにいま世界で起きていることなのだ。なぜそれが起きているのかは、本書のなかで理解出来るだろう。土居氏は思想家であると同時に、観察者であり、語り部でもある。
 世界で最も豊かな表現方法のひとつであるアニメーション。いまここで何が起きているのか、それが何を意味し、社会や自分にどう繋がっているのか。そんなダイナミックな変化を知り、ドキドキしたい、「21世紀のアニメーションがわかる本」はそんな人にお薦めしたい一冊である。
 
『21世紀のアニメーションがわかる本』
土居伸彰著
http://filmart.co.jp/books/review/21seiki_anime/
四六版|232頁|定価 1,800円+税
https://goo.gl/SoTSbe

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