2017年9月29日、30日に、デンマーク・ヴィボー市でアニメーション研究家の津堅信之氏が日本のアニメーションに関する講演を行った。9月25日から10月1日まで同地のヴィボー・アニメーション フェスティバルで日本特集が実施された一環だ。
プログラムのひとつに日本の国立近代美術館フィルムセンターが提供するプログラム上映が組まれた。津堅氏は、そんな日本のアニメーションの歴史、文化の背景を紹介した。
講演は滞在中に2回、第1回が「日本のアニメーションと大藤信郎」、2回目が「日本アニメーションの歴史」とされた。
残念ながら他のスケジュールと重なり、1回目を聴くことができなかったのだが、2回目は日本とヨーロッパの日本アニメーション史を観る視点の違いに焦点を当てた興味深いものだった。多くの聴衆が真剣に聞き入っていた。また終了後には活発な質問があり、津堅氏の提示した論点がよく理解されていることが感じられた。
講演は、日本のアニメーション史について日本国内の歴史観と欧米からみた歴史観に大きな違いがあるとの前提の確認からのスタートである。日本人が意識しない「ANIME」と「ANIMATION」の差こそがその違いである。そして日本アニメーションの固有性を体現する「ANIME」がいつの時点で誕生したかを紐解いていく。
その重要なポイントを、テレビアニメ『鉄腕アトム』の登場、『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』に代表される70年代のヤングアダルト向けの作品に置く。これらがキャラクターの複雑な感情表現を含み、さらに制作者とファンの距離感が近いという独自の特長になっていく。
また日本アニメを特徴づける大きなポイントとして、2Dやセルルックを好む日本のファンの特性も挙げた。ただし津堅氏はここで日本の視聴者が2Dを好きである理由については明確に回答をださず、会場に逆にどう思うか問いかけた。
そんな質問に、会場からはヨーロッパのテレビアニメーションも一時期は3Dばかりであったが、最近は2Dの作品がまた増えているとの指摘があった。2Dにこだわりを持つのは、何も日本だけでないというわけだ。
実際に津堅氏も今回の映画祭の学生コンペティションの作品に2Dやストップモーションが多いのに驚かされたという。となると、日本的と思われたことが実は日本的ではなかったという可能性もある。日本の中から見たアニメーションも、海外で見るアニメーションも、実際には文化が同時に広がりボーダーレス化するなかで、意外に価値観も再び重なり始めているのではないか。そんな気持ちも抱かせた講演であった。