ソニー・ピクチャーズ 米国の日本アニメ配給ファニメーションを買収、約1億4300万ドル

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■ 買収額1億5000万ドル、現CEOが引き続き経営

 米国のメディアコングロマリットの一角であるソニー・ピクチャーズが、現地の日本アニメ配給企業の大手ファニメーション(Funimation Productions, Ltd.)を傘下に収める。
 2017年7月31日、ソニー・ピクチャーズはテレビ部門のグループ会社ソニー・ピクチャーズ テレビジョン(SPTN)がファニメーションの株式を1億4300万ドルで取得すると発表した。これはファニメーションの持分の95%にあたる。買収後も現CEOのゲン・フクナガ氏は少数株主にとどまり、引き続きCEOとしてファニメーションの経営に携わる。

 ファニメーションは1994年に、フクナガ氏らが設立した米国の日本アニメ配給会社である。『ドラゴンボール Z』や『進撃の巨人』、『君の名は。』などの人気作品を多数扱ってきた老舗だ。長年、米国の日本アニメビジネスのトップ企業として日本企業にもよく知られている。
 一方SPTNはソニー・ピクチャーズのグローバルのテレビ番組事業を統括している。AXN、ソニーチャンネル、アニマックスといった放送局の視聴世帯数の合計は世界で20億に達する。さらに「CRACKLE」のブランドで映像配信プラットフォームも運営する。

■ ビッグビジネス化する日本アニメにハリウッドメジャーが参戦

 ファニメーションは巧みな経営手腕で知られており、2000年代半ばの米国での日本アニメ不況時も、ライバル企業が次々に経営破綻・撤退をするなかで生き残った。強みの一つは資本政策で、大株主はたびたび入れ替わっている。
 それでも今回のSPTNによるファニメーションの買収は、とりわけ大きな事件だ。ハリウッドの6大メジャーの一つが、本格的に日本アニメ配給に取り組むことになるからだ。
 これは昨今の米国における日本アニメビジネスの環境の変化が影響している。日本アニメの配信ビジネスの拡大とビッグビジネス化だ。

 日本アニメのビジネスは2000年代半ばまでは、DVD/ブルーレイといったファン向けの映像パッケージ発売が中心であった。しかし、過去10年で映像パッケージの売上は急減した。
 替わって急浮上したのが配信である。アニメファンの視聴はテレビやDVD/Blu‐rayよりも、安く手頃に視聴できる配信プラットフォームに移っている。同時に手軽に視聴できることから、日本アニメファンの拡大にもつながっているとされる。
 新興企業で日本アニメ配信専門のクランチロールが急成長する一方で、視聴者を獲得できるコンテンツとして多くの企業が日本アニメに注目するようになった。配信大手のNetflix、Amazon プライムビデオが日本アニメを積極的に導入し、2014年にはクランチロールはメディアコングロマリットのチャーニン・グループと大手通信会社AT&Tの傘下に入った。

■ ファニメーションがソニー・ピクチャーズを選ぶ理由

 配信事業に大手企業がひしめくなかで、日本アニメの米国配給権が急激に高騰をした。これが昔ながらのアニメ配給会社に大きな負担となっている。近年ファニメーションは、映像パッケーシ中心から自社プラットフォーム他での配信、劇場配給、商品化など、広いビジネス展開で活路を探ってきた。
 また買付の過当競争を避けるため2016年10月にライバルのクランチロールと業務提携を結び、アニメ業界を驚かせた。しかし、両社の取り扱いタイトルを相互供給する提携は、成長性の高い配信市場に優位があり、資本力の大きなクランチロールにより有利とみられる。そこでSPTNの傘下に加わることで、新たな資本とネットワーク、強力なバックグランドを得ることで巻き返しを目指す。

■ アニマックス、キッズステーションとの連動も視野

 またSPTN側にも、ファニメーションの買収する理由がある。こちらもやはり配信だ。SPTNは映像配信プラットフォームのCRAKELを運営するが、その普及はNetflixやAmazonに遅れを取っている。そこで配信で人気の高い日本アニメを取り込む。とりわけSPTNは日本アニメが広く普及するアジア地域を得意とし、アジア各国は欧米に比べて配信プラットフォーム市場の趨勢が定まっておらず、ビジネスチャンスは残されている。
 SPTNはこれまでも日本アニメを中心とした放送局ネットワークANIMAXも保有している。ANIMAXの資産とノウハウを組み合わせることで、テレビと配信の双方でビジネスの拡大が可能だ。
 ANIMAXの中には日本法人のアニマックスもあるが、そのアニマックスはこの3月にもうひとつの大手アニメ専門放送局キッズステーションと経営統合したばかりだ。SPTNでは、今回の発表でアニマックス、キッズステーション、ファニメーションの持つ作品を合わせた展開に言及している。ファニメーション買収がグローバル規模の日本アニメ戦略の一端であることが分かる。

 しかしSPTNのグローバル戦略が、うまく回るかどうかは未知数だ。テレビでの広大なネットワーク、厚みのある資本力は強みだが、配信分野でのクランチロールやNetflixに対する劣勢を覆すのは楽でない。
 もうひとつは日本や北米のアニメビジネスで存在感の大きなアニプレックスとの関係だ。アニプレックスは、日本のソニー・ミュージック エンターテイメントの子会社でアニメビジネスに特化する。一方で、グローバルビジネスや劇場配給、ゲームに進出と多角化を進めており、その一部はSPTNやファニメーションと重複する。
 同じソニーグループの企業として連携すれば大きな力を発揮するが、ソニー・ピクチャーズとソニー・ミュージックはアニメ事業でこれまでほとんど連携がなく、むしろ疎遠だ。もし両社が個別にアニメビジネスを目指すのであれば、企業グループ内で市場を喰い合うことになる。SPTNとファニメーションの行方は様々な面から注視されそうだ。

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