2017年5月31日、産業革新機構が子会社の株式会社All Nippon Entertainment Works(ANEW)の譲渡を発表した。機構が保有するANEWの全株式を京都に本拠を持つベンチャーキャピタルのフューチャーベンチャーキャピタル株式会社に売却する。
フューチャーベンチャーキャピタルの取得金額は非公表。同社はANEWの株式の99.6%を保有し、連結子会社とする。また買収により、財務において負ののれんが発生する。
産業革新機構は、国と国内有力企業の出資により2009年に設立された官民共同投資ファンド会社で、投資規模は2兆円に及ぶ。中小型ディスプレイのジャパンディスプレイやルネサスエレクトロニクスなどに出資、企業再生や新分野への戦略投資で国の経済政策でも重要な役割を果たしている。先頃、メディアドゥに売却された出版デジタル機構の大株主でもあった。
一方フューチャーベンチャーキャピタルは1998年設立、これまでに地方活性化を目指した地方創生ファンドやコーポレートべンチャーに特化したファンドを運営してきた。そうした経験をANEWでも活かす。
ANEWは日本の優れたコンテンツをもとにグローバルな映像作品を生みだすとして、2011年10月に設立された。コンテンツの海外展開が国の戦略分野のひとつでもあることも反映したものだ。日本のマンガ、小説、ゲーム、キャラクターなどの有力コンテンツの権利関係をクリアにしたうえで、米国を中心としたエンタテイメント企業と共同で映画化を目指してきた。代表にはハリウッドのベテランプロデューサーであるサンフォード・R・クライマン氏が就任、東京とロサンゼルスにオフィスを持つ。
これまでに人気アニメ『TIGER & BUNNY』のハリウッド実写化企画、日本のエンタテイメント会社フィールズや米国の映画会社The Bedford Falls Companyと協業する『ソウルリヴァイヴァ―』ハリウッド実写映画化企画などが明らかにされている。
産業革新機構では、現在までにANEWは7 つの案件で映画化に向けた企画・開発に着手しているという。また本年度中に、このうち1本の製作開始が決定していることを明らかにする。
一方で、設立以来、5年を超えるなかで、作品完成の成果がでていないことに対する批判も少なからずでていた。またプロジェクトの遅れからANEWの決算は利益面でマイナスが続き、2016年12月期末も3億4700万円の当期純損失を計上している。今回、経営母体が完全に民間に移動することで、事業推進とスピードアップが期待される。
フューチャーベンチャーは、ANEWのプロジェクト実現の遅れが、政府資本ファンドであることによる資本調達の制約が大きかったことを挙げる。自身の強みであるファンド組成と投資機能を組み合わせることで、スピードアップの実現を目指す。経営母体の移動は、ANEWにとって大きな転機になりそうだ。