21世紀に入って以降、音楽ビジネスは凄まじいスピードで変化を続けている。最初はCDなどのメディア媒体からネットを通じたダウンロード販売への音楽購買手段の転換、その次は「Apple Music」「Google Play Music」「Spotify」といった定額聴き放題の音楽配信の普及である。
その次の新たなビジネスが、日本から生まれるかもしれない、2017年3月14日、そんな予感をさせる大きな発表が国内音楽会社10社、フライングドッグ、エリベックス・ピクチャーズ、KADOKAWA、サインライズ音楽出版、東映アニメーション音楽出版、東宝、フロンティアワークス、ポニーキャニオン、マーベラス、ランティスから行われた。10社は共同出資で、株式会社アニューターを設立。アニメの音楽だけに特化した月額定額課金の音楽配信サービス「ANiUTa」のサービスを開始した。
「ANiUTa」への参加レーベルは、出資10社に限らない。すでにブシロード、MAGES、ビクター、バップ、徳間ジャパン、ワーナーブラザース、ユニバーサル、Rejetほか多数の有力レーベルが参加し、幅の広い楽曲を提供が実現している。スタート当初で5万曲のアニソンを用意する。
記者発表は、都内KADOKAWA本社のシアター神楽座で開催された。会場には株式会社アニューターに出資する各社の代表が揃び、事業の大きさと取り組みに対する意欲の高さを感じさせた。
アニューターの代表取締役に就任したフライングドッグ代表取締役の佐々木史朗氏は、今回の試みについて“アニソン・アニメ限定の専門ショップ”とのコンセプトを挙げる。
サブスクリプション型(定額課金型)の配信サービスは多いが、「曲がいっぱいあればいいのか?」と問う。アニソンだけに絞り、よりサービスの充実した使い易いサービスを目指す。そのうえでジャンルに限定したサブスクリプション配信は、世界初では? と話す。
また、ビジネス的メリットとして、通常のサブスクリプション配信ではアニソンは数百万曲の中の小さな割合だが、アニソンは全てであるため、実現できる有料会員の数にもよるが、それぞれの権利者に返せるお金も大きくなるのでは、と話す。
さらに年内に日本だけでなく、海外でも順次同等のサービスを開始予定と、グローバル展開を視野に入れる。「ANiUTa」初のアニソンイベントも5月に決定しており、関連事業の展開も積極的だ。配信だけでなく、アニソンを通じたコミュニティ、総合サービスの趣だ。
これだけ多くの会社が加わったのは驚きだが、そのきっかけは参加企業にひとつランティスの井上俊次代表取締役社長と佐々木氏が、「メーカー横断で何かをしたい」と話したことにあった。
佐々木氏は、「私たちはアニソンとアニメのお蔭でいまがある。そのお返しなければ」とも言う。多くの企業がこの考えに賛同した結果である。
またサブスクリプションと既存ビジネスとの関係に聞かれると、「CDがなくなる危機感は、誰でも持っている。しかし、一番怖いのはアニメファン、アニソンファンが減ること。若い世代にアニソンを好きになって欲しい」と。そうした熱い想いが、「ANiUTa」を実現させたわけだ。
「ANiUTa」はこれまでにないアニソンビジネスの新しい試みとなった。しかし多くのレーベルがプロジェクトに参加する一方で、キングレコード、ソニー・ミュージックといった参加がない大手企業も存在する。
こうした企業が今回の試みを見て独自に同様のサービスを打ち立てるのか、あるいは「ANiUTa」に合流するのか、その動向も気になるところだ。