アヌシー映画祭長編部門審査員賞に「Chao」、短編部門、学生部門にも日本から受賞作品

青木康浩監督「Chao」

 6月8日から14日まで7日間、フランスで世界最大のアニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭が開催された。近年はその規模の急拡大に目が奪われるが、2025年は例年以上に日本の存在感が増した年になった。注目のコンペティションで複数の受賞がもたされた。
 14日に発表されたアワードでは、注目の高い長編オフィシャルコンペティションでスタジオ4℃が制作、青木康浩が監督する『Chao』が審査員賞に輝いた。本作は「人魚姫」の逸話をベース近未来を舞台に人間の青年と人魚の恋を描いた物語。スタジオ4℃らしい手描きの作画の魅力を押し出した。
 日本勢の長編オフィシャルコンペティションでは、昨年の『窓ぎわのトットちゃん』、一昨年の『夏へのトンネル、さよならの出口』のポール・グリモー賞と3年連続の受賞だ。長編作品で日本の存在感を発揮する。

瀬戸桃子監督『ダンデライオン・オデュセイ(Dandelion’s Odyssey)』

瀬戸桃子監督『ダンデライオン・オデュセイ(Dandelion’s Odyssey)』

 フランスとベルギーの共同製作ではあるが、今年のポール・グリモー賞には日本人監督の瀬戸桃子による『ダンデライオン・・オデュセイ(Dandelion’s Odyssey)』が選ばれた。瀬戸監督はフランスで学び、パリを拠点に活動をする。本作は自身のライフワークである一連の「Planet」の初の長編で、地球を失った植物のタネが壮大な旅をする異色作品である。
 近年日本とのコラボレーションが多いフランスのMuyuプロダクションが中心となり制作した。本作の受賞はカンヌ映画祭の批評家週間の国際映画批評家連盟賞に続くものだ。
 長編コンペティションは観客賞の『小さなアメリ(Amélie ou la Métaphysique des Tubes』が日本の京都を舞台にしているが、こちらもフランス作品だ。日本のカルチャーが様々なかたちでアニメーションの世界に広がっていることを感じさせる長編コンペティションになった。

折笠良監督『落書』

折笠良監督『落書』

 2025年にさらに注目されるのは、短編部門の活躍だ。オフリミット(Off-Limits)部門でオフィシャルセレクションされた折笠良監督の『落書』が、オフリミット賞を受賞している。これまでもザグレブやオタワのアニメーション映画祭でも受賞経験がある実力派だが、それでも9作品がラインナップされるこの部門から唯一の受賞作は、素晴らしい結果だ。

木原正天監督『Q』

木原正天監督『Q』

 さらに学生部門(Graduation Films)では、多摩美術大学大学院から木原正天監督の『Q』がロッテ・ライニガー(LOTTE REINIGER)を受賞した。同賞は長編部門ではポール・グリモー賞にあたるもので、3つある学生部門主要賞のひとつだ
 学生部門の主要賞の受賞は、2017年の冠木佐和子監督が『夏のゲロは冬の肴』で審査員賞を取って以来、2度目に過ぎない。学生部門のオフィシャルコンペティション作品は45本もあるから快挙と言っていいだろう。
 従来はオフィシャル作品にもなかなか選ばれなかった学生部門だが、今年は木原監督も含めて『Hand』(オウ・セイ)、『私は、私と、私が、私を、』(伊藤里菜)、『霞始めてたなびく』(山中千尋)の合計4作品が選ばれている。今回の受賞も含めて次につながりそうだ。

ウーゴ・ビアンヴニュ(Ugo Bienvenu)監督『Arco』

ウーゴ・ビアンヴニュ(Ugo Bienvenu)監督『Arco』

 
 長編部門のグランプリに当たるクリスタル賞には、フランスのウーゴ・ビアンヴニュ(Ugo Bienvenu)監督の『Arco』が輝いている。本作も今年のカンヌ映画祭で上映されている。遠い未来から来た少年がロボットに育てられた少女アイリスと絆を結ぶ姿を描く。
 もうひとつの長編部門、コントレシャンのグランプリはカナダの『Endless Cookie』 、審査員賞は韓国の『The Square』だった。
 短編部門クリスタル賞はフランスの『The Night Boots』、学生部門クリスタル賞は同じくフランスの『Zootrope』。地元フランス勢の強さが目立つ2025年であった。

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