米配信会社クランチロール、アニメアワードの日本初開催で存在感増す

クランチロール・アニメアワード 2023

 2023年3月4日、東京港区のグランドプリンスホテル新高輪で、日本のアニメ関係者が集まった大規模なアニメイベント「クランチロール・アニメアワード 2023」が開催された。過去1年間に海外でリリースされた日本アニメのなかから、優れた作品やそのスタッフを顕彰するものだ。
 最高賞にあたる「アニメ・オブ・ザ・イヤー」には、今石洋之監督でTRIGGERがアニメーション制作した『サイバーパンク エッジランナーズ』が選ばれた。ポーランド発のゲーム『サイバーパンク2077』からスピンオフしたシリーズ作品で、ディストピアな未来を舞台にしたアクション満載のサイバーパンクSFである。TRIGGERらしい尖った映像とストーリーがファンからの絶大な支持を集めた。

TRIGGER代表取締役社長 大塚雅彦氏


 スタッフを代表してトロフィーを受け取ったTRIGGER代表取締役社長の大塚雅彦氏は、「日本とポーランドのジャンルも国も違う会社が本気で討論し、妥協せずに頑張った結果がこうした評価になったのでないか。作品に関わった全てのかたと作品を見てくれた全てのファンに感謝します」と述べた。

 各部門の受賞には、他にも人気作品が並んだ。楽曲関連を中心に6部門の『進撃の巨人 The Final Season Part 2』、最優秀アニメーション賞など5部門に輝いた『鬼滅の刃 遊郭編』、最優秀新シリーズ賞など4部門の『SPYxFAMILY』などだ。受賞作品の選出は全世界のファンと審査員の投票により決定している。これらが世界でいま人気のある作品のトレンドというわけだ。

 アワードは日本アニメを世界に発信する配信プラットフォームのクランチロールが主催している。実は今回で開催は7回目となるが、授賞式を日本で実施したのは初である。クランチロールは日本国内向けには配信サービスをしていないため、これまで日本のアニメファンにあまりプレゼンテーションをする必要がなかったためだ。
 それを今回、日本開催にした理由はいくつかある。ひとつは海外のアニメファンに向けて、多くの作品が制作されている日本、聖地で開催することのアピールだ。授賞式には日本開催ならではで、制作スタッフや関係者の参加も増える。
 もうひとつは日本のアニメ業界やアニメファンに対する存在感のアピールだ。海外のアニメビジネスではいまや圧倒的な存在になりつつあるクランチロールだが、日本ではアニメファンだけでなく、業界関係者にも十分知られていない。ここでクランチロールを広く知ってもらうことで、これからさらに世界のアニメビジネスで拡大を目指す時に日本側の協力も期待出来る。

 それは大規模イベントで有名なホテルを会場に招待客だけでも約400名も集め、さらに国内外から著名なゲスト陣を招いたことにも表れている。豪華な授賞式はグローバルでアニメがそれだけ価値があること、そしてそれをクランチロールがサポート出来るのだとアピールする。
 「アニメ」のジャンルのアピールでは、ソニーグループ代表執行役会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏が姿を見せたのもサプライズであった。00年代後半にアニメファンによる投稿サイトからスタートしたクランチロールは、その後の急成長と資本関係の変遷を経て、2021年にソニーグループの傘下にはいった。日本アニメを世界規模で配信するそのネットワークの獲得は大きなニュースとなった。今回はそのソニーグループ全体のトップ、さらに映画部門のトップであるサンフォード・パニッチ氏、配給・ネットワーク部門のトップであるキース・ル・ゴイ氏も会場に訪れた。ソニーグループがアニメを戦略事業と捉えていることが分かる。
 吉田憲一郎氏は、「今やアニメはグローバルなエンタテインメントです。現在世界では3億人ものファンがストリーミングサービスでアニメを楽しんでいます」とし、それを作りだすクリエイターたちの役割こそが大切と強調した。

(左)ラウール・プリニ (クランチロール社長)、(右)ソニーグループ代表執行役会長兼社長CEO 吉田憲一郎氏


 ではいまや巨大企業になったクランチロールは、今後はどこを目指すのだろうか。それは「アニメ」のジャンルのさらなる拡大だ。ジャンル全体を大きくすることで自らの成長余地も広がるというわけだ。それだけにアニメ・オブ・ザ・イヤーを受賞した『サイバーパンク エッジランナーズ』がライバル企業Netflixの独占タイトルだったのも興味深い。
 アニメのさらなる普及、拡散の狙いは、今回、国内外からプレゼンテーターとして参加したゲスト陣からも窺える。『アリータ: バトル・エンジェル』や『マンダロリアン』のロバート・ロドリゲス監督、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』出演の俳優フィン・ウルフハード、NFLの有名選手エイダン・ハッチンソンと女子プロレス選手ゼリーナ・ヴェガ、乃木坂46の賀喜遥香、さらに有名ネットインフルエンサーなど。
 そこからは「映画」「ドラマ」「スポーツ」「アイドル」「ネット」といったキーワードが浮かび上がる。海外でアニメを視聴するファンたちは、すでにこうした分野のファン層と大きく重なるというわけだ。同時にこうしたジャンルからさらにファンとユーザーを引き寄せたいとの狙いもあるだろう。

 すでに世界で1億人以上のユーザーを抱えるクランチロールだが、総合的な配信プラットフォームNetflixやAmazon プライムビデオ、ディズニープラスと較べるとコアファンのサービスとのイメージが強い。こうした外側にいるファンをいかに取り込むか、同時に今回のアワードに見られたロイヤリティの高いファンの熱気をどう維持し続けるのか。難しい舵取りではあるが、今後のさらなる飛躍の鍵になりそうだ。

[クランチロール・アニメアワード 2023受賞作品]

■アニメ・オブ・ザ・イヤー
『サイバーパンク エッジランナーズ』
■最優秀アクション作品賞
『鬼滅の刃 遊郭編』
■最優秀アニメーション賞
『鬼滅の刃 遊郭編』
■最優秀アニソン賞
『進撃の巨人 The Final Season Part 2』 「The Rumbling」 SiM
■最優秀キャラクターデザイン賞
『鬼滅の刃 遊郭編』 松島晃
■最優秀コメディ作品賞
『SPYxFAMILY』(第1クール)
■最優秀継続シリーズ賞
『ONE PIECE』
■最優秀監督賞
『鬼滅の刃 遊郭編』 外崎春雄
■最優秀ドラマ作品賞
『進撃の巨人 The Final Season Part 2』
■最優秀エンディング賞
『SPYxFAMILY』(第1クール) 「喜劇」 星野源
■最優秀ファンタジー作品賞
『鬼滅の刃 遊郭編』
■最優秀長編アニメ賞
『劇場版 呪術廻戦 0』
■最優秀主演キャラクター賞
『進撃の巨人 The Final Season Part 2』 エレン・イェーガー
■最優秀新シリーズ賞
『SPYxFAMILY』(第1クール)
■最優秀オープニング賞
『進撃の巨人 The Final Season Part 2』 「The Rumbling」 SiM
■最優秀オリジナルアニメ賞
『リコリス・リコイル』
■最優秀ロマンス作品賞
『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』
■最優秀作曲賞
『進撃の巨人 The Final Season Part 2』 KOHTA YAMAMOTO / 澤野弘之
■最優秀助演キャラクター賞
『SPYxFAMILY』(第1クール) アーニャ・フォージャー
■最優秀声優賞(日本語)
『進撃の巨人 The Final Season Part 2』 エレン・イェーガー役 梶裕貴

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