配信・劇場はアニメの旅の出発点、クランチロール/ミッチェル・バーガー氏インタビュー

クランチロール/ミッチェル・バーガー氏インタビュー

配信はアニメの旅の出発点、多角的なビジネスを目指す
クランチロール グローバル・コマースシニアバイスプレジデント/ミッチェル・バーガー氏インタビュー

 クランチロールのエグゼグティブインタビュー第2弾。今回はシニアバイスプラジデントで、グローバルコマースを統括するミッチェル・バーガー氏にインタビューをお願いした。バーガー氏は配信や配給、ライセンス、商品化といった分野のビジネスを担当、作品をファンにいかに届けるのか要として活躍している。

【クランチロールとファニメーションの統合、全ての事業でグローバル展開が可能に】

数土―― バーガーさんのクランチロールでの役割から教えていただけますか?

ミッチェル・バーガー氏(以下、M・B) ―― 私はグローバル・コマース・グループを率いています。 グローバル・コマースは、サードパーティとの協業に重点を置き、 主に4つの分野に注力しています。
まず、劇場のグループです。劇場用映画部門の世界的な配給をすべて担当しています。
2つめはホームエンタテインメント・グループで、Blu-rayやDVDといったフィジカルな商品とAppleやiTunesなどのデジタル版の商品の両方のビジネスです。
3つめはコンシューマープロダクツです。玩具からフィギュア、Tシャツなどへのライセンス供与などのビジネスです。
そして最後が、コンテンツ配信です。 クランチロールのプラットフォーム外の企業と協働するもので、Huluでの配信やカートゥーンネッワーク(Cartoon Network)での放送なども含みます。
この4つの領域でパートナーとどのように協力してビジネスを推進し、クランチロールの価値を高め、事業領域を拡大するかに重点を置いています。

数土―― 今年になってファニメーションとクランチロールが統合して、事業のブランドをクランチロールに統一しました。なぜクランチロールのブランドが選ばれたのでしょうか? クランチロール・ブランドは非常に強力ですが、ファニメーションもビッグネームです。

M・B―― もちろん、難しい決断がありました。ブランドは統一する必要があり、そのために多くの議論をしました。どちらのブランドにも非常に価値があり長い歴史がありましたが、ビジネスの世界展開を視野に入れた時には、クランチロールの方がより理にかなっていると考えました。

数土―― 統合の決断をされてからグローバル事業は拡大しているのでしょうか?

M・B―― 両社の統合と、両社が過去に何年も行ってきた他の買収によって、素晴らしい道筋を手に入れることができました。コンテンツを配信するための非常に幅広いソリューションを提供することができるようになりました。配信、劇場映画、ホームビデオ……、私たちはIPを世界規模で最大限に成長させることができるのです。2社を統合したことで、すべての事業においてグローバルな事業展開が可能になりました。それが重要なポイントです。

数土―― ファニメーションは北米の会社というイメージがありましたが、今後のグローバル市場に向けてはどのような戦略を持っていますか?

M・B―― 私たちがやっていることはすべてグローバルを見据えています。実際にアニメファンは世界中にいますし、それがアニメの素晴らしいところです。そしてそれらの作品を配信することが、新しいクランチロールの役割です。
さらに配信以外のビジネスにも目を向けています。例えば『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の世界公開です。この作品を真の意味でグローバルに公開することは、素晴らしいことです。

【重要なのはよいストーリーを持っているのかどうか】

数土―― 新しいクランチロールの劇場配給での成功はとても驚きです。成功した理由は何でしょうか?

M・B―― 2つあります。第一に何よりも素晴らしい映画です。日本のパートナーからの素晴らしいフィルムがあります。良い映画がなければ、何をやってもダメですから。いまはソーシャルメディアやデジタルでファンはつながっていますが、良い映画でなければ、誰も何も言いません。人々は映画が良いか悪いかは、すぐに分かるのです。だからすべては素晴らしい作品を持つことから始まります。
もうひとつはクランチロールが劇場での体験にこだわりを持っていることです。私たちは、劇場という場での上映に価値があると考えています。ファンは一緒にいるのが好きなのです。大きな会場で同じ作品を愛する人たちと一緒に座り、大きなスクリーンで素晴らしい音響で見る。何か特別な感じがするはずです。これは他の方法では得られないコミュニティの経験です。そこが人気の秘密です。私たちはファンの皆さんに、私たちの劇場で何を行っているのかを知ってもらうために本当に一生懸命に取り組んでいます。
私はファンが旅をしているのだと思っています。劇場での体験は旅の終わりではなく、旅の始まりです。そこから配信やホームエンターテイメント、ライセンス商品など、さまざまな体験ができるようになるでしょう。私たちはそれをとても大切にしています。

数土―― いま良い映画とありましたが、アニメ映画で素晴らしいコンテンツとは何でしょうか? ジャンルにこだわりはありますか?

M・B―― 重要なのは、それが良いストーリーであるかどうかです。ジャンルは関係ないと思います。ファンが本物だと感じられる、本当に良い物語であればアクションでもロマンスでもコメディでも何でもいいはずです。実写の劇場映画を見ても、あらゆるジャンルの大作がありますよね。
私たちも、これまであらゆるジャンルで成功を収めてきました。本当に重要なのは素晴らしいストーリーであり、人々の心に響くものであり、人々が共感できるものです。それさえあれば、ファンはついてきます。
ある作品は他の作品より、より大きなビジネスになるかもしれません。ただ私にとっての成功は興行的なものだけではありません。ファンが作品を愛したかどうか? 彼らは作品につながっているのか? 作品を観た後に、その話をしているのか? 作品との関係は続いているのか? 繰り返しになりますが、すべてはストーリーに帰結するのです。

数土―― 2022年に新海誠監督新作の『すずめの戸締まり』をクランチロールで世界展開すると発表しました。この大きなタイトルに挑む理由は?

M・B―― 理由は2つ。ひとつは、新海監督の作品は素晴らしいからです。彼が手がけたこれまでの作品の数々は本当に素晴らしいものでした。私たちは素晴らしい物語を語る偉大な映画監督と一緒に仕事をしたいと思っていますが、新海誠はまさにそのような人物の一人です。だから私個人としても、彼とまた一緒に仕事ができて、多くの観客にこの映画を届けられるということは、本当に素晴らしいことです。
もうひとつはクランチロールが、ソニーとのパートナーシップや国際的な配給により、北米においても世界においてもアニメ映画を市場に送り出すのに最も適した企業だと信じているからです。
ソニーとの協力による海外配給とアニメに特化した私たちが提供できるものは、とてもユニークだと思います。『すずめの戸締まり』は、アニメファンのみならず、より多くの人に楽しんでもらえるような作品になると思います。

【ファンとのコミュニケーションとライトスタッフ買収】

数土―― 先日、大きなニュースがありました。老舗のアニメECサイトであるライトスタッフ(Right Stuf)をクランチロールが買収しました。この理由は?

M・B―― ライトスタッフとCEOのショーンは35年かけて素晴らしいビジネスを築き上げました。彼らはファンと素晴らしい関係を持つなかでサービスを提供しています。ライトスタッフとファンの間には、信頼の塊のようなものがあります。それはまさにクランチロールが行っていることなのです。私たちもファンと信頼関係を築き、対話をしているからです。ファンへのサービスとの観点から彼らが行っている素晴らしい商品の販売は、クランチロールの行っていることと完全に合致しています。それは私たちの世界規模の商品販売ビジネスを補うものでもあります。
私たちのすべきことは作品のファンになった人が、その作品を表現できるような商品を市場に送り出すことです。フィギュアを買う、Tシャツを買う、キャラクターが描かれたメガネを買う、ホームビデオを買う、映画館で鑑賞する。どんなことも、自分がファンであることをアピールするものです。私たちはそれを実現したいのです。彼らのビジネスが素晴らしいので、同じファミリーの一員になることをとてもうれしく思っています。

数土―― 日本では多くの人がクランチロールを配信プラットフォームだと考えています。しかし今では、配信だけでなく、イベントもありますし、商品開発もします。ビジネスを拡張する目的は何になりますか?

M・B―― 私たち本当の目的はファンを作るのではなく、ファンが最初にコンテンツを見つける場所を提供することです。通常は配信ですが、映画館かもしれません。多くのファンは私たちのプラットフォームで作品を見つけ、視聴して、それを気に入ります。そして作品のファンになるのです。そこで終わるわけでありません。そこは出発点で、終着点ではありません。
私はスター・ウォーズが大好きなのでポスターをオフィスに飾ったり、アクションフィギュアを集め、DVDやブルーレイを手に入れて、コミックを収集しています。これらはすべて私がスター・ウォーズのファンとして、さまざまなことを体験したいことの延長線上にあるのです。これと同じようにある作品のファンになると、そのファンであることを表現し、さらに関わり続けたいと思うものなのです。このようなファンの気持ちために、どこにいても作品と出会う機会を作るわけです。クランチロールは、「あなたのファンの気持を示すためのものがここにありますよ」と言えるようにしたいのです。彼らが「どうして私が欲しいと思っていることがわかったの?」と言うことこそが、私がやりたいことなんです。

数土―― 買収が続きソニーグループの存在が大きくなることで、市場の競争力が低下することを懸念する人もいるのではないでしょうか?

M・B―― 業界の弱体化を恐れている業界人は多いのですが、私はそのような事態になると思いません。ソニーは素晴らしい会社ですし、アニメには素晴らしいチャンスがあります。ファニメーションとクランチロールが結びついたことで、アニメはより多くのファンに届くことになりました。それが重要な点です。
素晴らしいアニメが日本の多くのパートナーによって、たくさん制作されています。私たちはそうしたアニメをより多くの視聴者に届けたいのです。ソニーに対してそうした懸念を抱くことは理解できますが、私の経験も考えると、ソニーは世界中のより多くの国で、より多くのファンに、より多くの作品を届ける手助けをしているのです。それは業界にとって素晴らしいことだと思います。クリエイターにとっても、スタジオにとっても、ライセンスにとってもです。

【世界中どこでも、アニメファンがそこにいる】

数土―― クランチロールの成長は、世界のアニメ産業の成長とも連動していると思います。グローバルな日本アニメ市場は今後も成長していくのでしょうか?

M・B―― はい、チャンスは絶対にあります。世界的に見ても、アニメを求める気持ちはとても大きいです。特に若い人たちが情熱的です。私はずっとエンターテインメントの仕事をしてきましたが、私の子供たちは私のすることにまったく関心を示しませんでした。ところがアニメの仕事を始めると突然、「すごい! 何をやっている?」 とか、「オフィスに行っていい?」とか、そんなことを気にするようになったんです。それは、彼らが情熱を注いでいるものだったからです。
世の中にはアニメに熱中している人がたくさんいますので、その人たちと交流し、アニメを楽しむ機会を提供することでマーケットを拡大するチャンスはあるはずです。私たちが素晴らしい作品を提供し続ける限り、彼らはアニメ業界全体を支えてくれると思います。私は楽観的です。

数土――  今後の展開として、どの地域がより魅力的でしょうか?

M・B―― どの地域にもそれぞれの魅力があります。どこに行ってもファンがいるのです。クランチロールはラテンアメリカに進出していますし、ヨーロッパにも当然進出しています。中近東は、アジアの中でも非常に興味深い地域です。中近東には、作品を求めているファンが非常に多くいます。
私はアニメ会社ではない外部の会社とミーティングをすることもあります。しかしそんなミーティングでは、ほぼ毎回、集まったテーブルに一人、「私はアニメファンです。話をしませんか?」と言ってくる人がいるんです。必ずしもミーティングに参加する理由がなくとも、私たちが来ることを知り、アニメについて熱く語りたいという理由でミーティングに参加するのです。
これは世界中のどの国でも同じです。どの国にもアニメに情熱を持っている人たちがいて、私たちと話したがっているのです。どの国にも私たちが成長するためのチャンスがあります。なぜならファンがそこにいて、私たちはただ彼らを見つけ、話をすればいいだけなのです。

数土――  最後にグローバルなビジネスにおいて、たとえば5年後、クランチロールはどのような会社になっていると思います。

M・B―― 常に状況は進化していますので5年後にどうなっているかは、私にはわかりません。できることなら、引退して、どこかの島を持ちたいくらいです。しかし、グローバルな視点から見ると、私たちの前には大きなチャンスが広がっています。
先ほども話したように、作品を求めるファンが世界中にたくさんいるからです。彼らと交流する方法を模索し続けることで、私たちは成長する機会を得られると思います。しかし、それ以上に重要なのは、日本発のアニメをより多くの人々に届け、作品やクリエイターを多くの人に知ってもらうことです。全てのファンにそれを届けたいのです。ですから5年後も、私たちは今と同じように、ファンに作品を提供し、ファンがそれを喜んでくれる方法を探し続けていることを願っています。

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