(前編)変わるトムス・エンタテインメント、「UNLIMITED PRODUCE」が目指すアニメの総合プロデュース ―執行役員・篠原宏康氏に訊く―

篠原宏康氏

いま日本のアニメ産業が大きく変わり始めている。アニメ視聴の主戦場は深夜帯や配信プラットフォームに移り、2兆円とされる市場の半分は海外だ。
そうしたなかで、制作会社も大きく変わり始めている。
アニメ事業開始から57年のトムス・エンタテインメント(以下、トムス)が、2021年7月に「UNLIMITED PRODUCE プロジェクト」の始動を発表した。自社制作作品だけでなく、他社スタジオと協業した作品をプロデュースするという。プロデュース(製作)事業の強化を目指したものだ。
これまで培ってきたアニメビジネスのノウハウを、企画・番組販売・ライセンス管理・宣伝に拡張する。『ルパン三世』『それいけ!アンパンマン』『名探偵コナン』など国民的アニメを数々生み出してきた老舗の新たな挑戦だ。

テレビ局やビデオメーカー、映画会社などアニメ関連企業のプロデュース会社化は近年のトレンドだ。これまで制作機能、作品生産の場と思われていたアニメ制作会社も例外でない。アニメーション制作の最前線にいる制作スタジオがプロデュース会社を目指すのはなぜなのか、そのメリットは。
7月にトムスが発表したプロジェクトに答えのひとつがあるのではないか。同社、執行役員 営業本部副本部長 兼 ビジネスプロデュース部長の篠原宏康氏に、プロジェクトの仕組みと、そこから目指し、生まれるものについて伺った。
(数土直志)

■制作スタジオの枠を超えて

数土 「UNLIMITED PRODUCE プロジェクト」の概要から教えてください。

篠原宏康氏(以下、篠原)―――老舗スタジオとして57年の歴史があるトムスが、世界的なアニメ産業の急激な変化にどう対応出来るのかを代表取締役社長の竹崎(忠)が2019年4月の社長就任時から考えてきました。制作現場に利益をもっと還元して産業を良くしていくことを考えた結果、プロジェクトコントロールが出来る川上に立ち、もっと積極的にプロデュースすることで出来るのでないかとスタートしています。
トムスは制作スタジオ(*)と見られていますが、実際はここ数年間で営業体制、企画・管理体制を強化しています。社員は250名ぐらいで営業・企画、管理が全体の半分以上を占めています。
しっかりとビジネスの出来る体制です。その体制をトムス制作以外の作品をプロデュースすることで、さらに有効に使えるのでないか。そこで得た利益を制作環境の整備や協力スタジオにも今後還元できるアライアンスを作れるのでないかといった考えが今回の「UNLIMITED PRODUCE」につながっています。
*【製作と制作の違い】アニメ業界ではファイナンス・番組販売・ライセンスマネジメント・プロモーションなどのプロジェクト管理を「製作」と呼び、ストーリー・映像や音など作品を作る工程を「制作」と呼んでいる。

トムス・エンタテインメント

数土 プロジェクトはいつ頃に立ち上がったのですか?

篠原―――3年前ぐらいからです。ただプロジェクトネームをつけたのは今回からで、プロデュース第1作の『バイオハザード:インフィニット ダークネス』が世に出たタイミング(*)でリリースしました。
*2021年7月8日よりNetflixにて全世界独占配信開始

数土 「UNLIMITED」のタイトルには挑戦的なニュアンスがあります。

篠原―――従来の枠に捉われず挑戦したいという意思を込めて「UNLIMITED」とつけました。これまで作品を売る人は売る人で、制作スタジオは制作するだけと各社役割分担がはっきりしていました。それがいま全部崩れた状況になってきました。放送局がアニメを作るスタジオを持つとか、出版社が自身で直接制作スタジオに発注していくとか。あるいはグローバル配信会社と出版社が直接契約交渉をして、そのなかで制作会社を見つけるとか。従来の形がどんどん崩れて行く状況なんです。
ですから我々も制作スタジオだけに捉われずに、より多くのビジネスチャンスを掴んでいき、そこで得た利益を制作環境の改善に回していきたい。

UNLIMITED

数土 確かにいま大きく枠組みが変わって、放送局も出版社も、ことによると芸能事務所までアニメに参入する時に、トムスがプロデュースする利点はどこにあるのですか?差別化があると思うのですが。

篠原―――制作を含む長年のアニメビジネスのノウハウですね。トムスにはベテランを中心とした制作体制がありますので、トラブルがあった時の対処法ですとかを外部のスタジオと効率的に一緒に考えていくことも出来ます。

■なぜトムスは変るのか

数土 現在のトムス自体の制作体制はどのようなかたちですか?

篠原―――トムスの制作本部にいま7つのスタジオがあります。『それいけ!アンパンマン』『ルパン三世』『名探偵コナン』、それに『バキ』や『フルーツバスケット』『Dr.STONE』『彼女、お借りします』などを制作しています。今年新しくCGに挑戦する第7スタジオを新設しました。この他に100%子会社のスタジオが3つあり。テレコム・アニメーションフィルムがあって、2.5から3ラインを持っています。それとCGアニメーションのスタジオでトムス・ジーニーズ、マーザ・アニメーションプラネットです。

数土 トムスはこんなにラインがあるのに、まだ足りないのかと驚かれる人もいそうです。

篠原―――社内スタジオの特徴は、長期のタイトルをずっとやらせていただいていることです。制作本部の制作ラインはなるべく長期継続する作品となっています。これはものすごくありがたいことです。ベテランのスタッフが多いので、技術を活かして安定して作品供給出来るラインと位置付けています。ただスタジオの空きがありませんので、新しくチャレンジする作品をやる環境が少ないというのがあります。
一方でアニメの主戦場がトムスの得意としてきた夕方の民放枠から深夜枠、グローバルの配信プラットフォームにどんどん移っています。そのなかで戦っていくには、世界中の人たちに見ていただいて、深夜帯でも応援してもらえる作品にもチャンレンジしなければいけない。それを実行したいのですけれど社内ラインがなかなか動かしづらい。これが外部のスタジオにもお願いして、挑戦をする理由です。

数土 最近は『弱虫ペダル』や『バキ』『Dr.STONE』といった作品の幅が広っていますが、こうしたことも影響しているのですか?

篠原―――もちろんそうです。『それいけ!アンパンマン』『名探偵コナン』は絶好調で、会社として重要なタイトルです。ただ『弱虫ペダル』や『バキ』『Dr.STONE』といったタイトルが当たったことが我々には自信になりました。もう一歩先に行ける、若い人が中心の海外にも出せる作品もどんどん作って行きたいとの意識の変化につながっています。
それを実現していく時に、社内ラインを拡充するアイディアはもちろんあるのですが、いまは作り手側が少ないので、いきなりは難しい。逆にいい作品を作りたい心意気はあるけれどもビジネス的にはこれからというスタジオさんがあり、ここをサポートさせていただいて共に成長出来れば、そちらのほうが産業のためにはなるはずです。

数土 外部スタジオの作品をプロデュースするとなると制作との会社のイメージも相当変わります。

篠原―――いろいろな試みをやっていることを伝えるのも、今回のプロジェクト発表の狙いのひとつです。外部のスタジオさんに連絡し「トムスです」と言うと、「制作スタジオさんですよね」となるのですが、最近トムスがやってきた実績を紹介すると、「確かにプロデュースをされていますね」と言っていただける。そこを知ってもらうことで協力体制をより広めていきたいです。

数土 制作会社は多いですが番組販売をし、ライセンス管理や宣伝も出来る会社は多くないですね。

篠原―――販売や宣伝、管理組織を維持するのはコストもかかりますので、年に2本、3本作品を持っていても維持できないですよね。トムスは相当なタイトル数の豊富なライブラリーがあるので、そうした体制ができています。海外の主要なマーケットには必ず人をだしています。そこに新しい作品を増やして一緒にセールスし、かつ新興スタジオの名前も海外で広めていきたい。

後編:(外部スタジオとの協力、これまでとの違い)に続く

トムス・エンタテインメント
公式サイト https:/www.tms-e.co.jp/

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