カナダ発の長編アニメーション「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」、山村浩二が語る

「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」、山村浩二

 2020年9月12日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムを皮切りに、長編アニメーション『VILLE NEUVE 新しい街 ヴィル・ヌーヴ』が全国順次公開する。カナダのフェリックス・デュフール=ラペリエール監督が全編墨絵を用いて映像表現した作品だ。
 かつてカナダ仏語圏ケベック独立運動で挫折した主人公が、1995年に迎えた2度目の独立運動の時期に長い間別居していた妻と再び会うなかで自身の人生を摸索する。独立運動というダイナミックな題材と裏腹に、モノクロームな画面、緩やかな動きと伴に変化していく絵、その表現はとても穏やかだ。 
 登場人物の内面も、もっとドラマチックに描くことが出来たかもしれない。しかしキャラクターの葛藤も表現は抑えられ、ストーリーが進むに連れ、それぞれの心情が徐々に明らかになる仕掛けだ。映像の印象も観客の心に知らぬ間に少しずつ染み込んでいく。

 公開まで一週間余りとなる中で、世界的なアニメーション作家・山村浩二氏が『VILLE NEUVE 新しい街 ヴィル・ヌーヴ』を語る試写会が9月2日にアンスティチュ・フランセ東京で開催された。聞き手は本作を配給するニューディアーの土居伸彰氏が務めた。
 
 山村氏は開口一番、「この作品を配給するのは勇気があるな」と話す。題材が日本では馴染みにくいケベック独立運動、デュフール=ラペリエール監督は長編初監督で知名度はこれまでは高くなかった。山村氏も今回の配給が決まるまで本作を知らなかったという。しかし映画を繰り返し見るうちに「配給する意味が見えてきた」という。
 「停滞感、過去にも未来にも行き様がない感じ」、山村氏は映画の表現をそう指摘する。そしてもうひとつ、作品における言葉の重要性をあげた。作中では短い会話やモノローグ、そして詩のような断片の連なり、これらが本作の特徴になっているからだ。ビジュアル中心に制作し、言葉に対して抵抗感のあった若い頃に本作をみたら映画を理解できなかったかもしれない、いまだから判るのだと話す。

 これに対して土居氏は、『VILLE NEUVE 新しい街 ヴィル・ヌーヴ』がアニメーション映画祭より、実写映画祭で多く取り上げられていることに言及する。従来のアニメーションとはやや異なる文脈から現れた才能なのだ。
 そして「勇気ある配給」と言われた作品選びの基準について、逆に「めちゃめちゃカッコいい」「見たことがない勇気ある作品」を選んでいると話す。その勇気に対して報いたいのだと。

 ニューディアーの配給するアニメーションはブラジルで生まれの『父を探して』や異才ドン・ハーツフェルトの『明日の世界』など、インディペンデントの中でも日本で見慣れないまさに勇気ある作品ばかりだ。 配給が勇気ある制作に報いるものであれば、それを送り出す勇気に観客もまた勇気を持って応えたいところだ。

『VILLE NEUVE 新しい街 ヴィル・ヌーヴ』
https://newdeer.net/ville/
2020年9月12日シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

「新しい街 ヴィル・ヌーヴ」、山村浩二

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