■ NETFLIX 日本でオリジナルアニメの強化発表
―湯浅政明監督「DEVILMAN crybaby」から東映アニメ、TMS、IG、ボンズまで―
2017年、アニメ関係者の間でたびたび話題に上ったのがNetflixである。定額課金見放題の映像配信サービスで瞬く間に成長したNetflixの契約世帯数は1億超と世界最大だ。また自社オリジナル作品の制作にも積極的である。8月に東京で開催された「アニメスレート2017」では、多数のアニメタイトルを発表し、日本アニメにも積極的に投資していくことを明らかにした。
Netflixならでは作品、豊富な予算、そしてグローバルの視聴者に伝わるネットワークが、アニメの制作のありかたやビジネスの仕組み、そして作品まで、新たなかたちを提示する。インターネット時代のアニメの変化を象徴する存在になっている。
■ スタジオジブリ再始動、宮崎駿「君たちはどう生きるか」以降も制作方針
―宮崎吾朗監督の新作やジブリパーク(仮)構想も―
宮崎駿監督の引退撤回は、2016年末には明らかになっていたが、2017年には次回の長編映画のタイトル『君たちはどう生きるか』が発表された。スタジオのスタッフ募集など、宮崎駿復帰をいよいよ感じさせる。
2017年のさらに大きなニュースは、スタジオジブリのアニメスタジオとして存続だ。スタジオジブリは、宮崎駿監督の長編映画だけでなく、宮崎吾朗監督の新作映画の企画も進行中だという。さらにその後も制作を続けるという。
また愛知県と「スタジオジブリパーク(仮)」構想を進めることも決まった。宮崎駿、高畑勲と共に幕を閉じようとしていたスタジオジブリは、方針を真反対に向け、永続的に回る組織を目指すことになる。
■ 湯浅政明監督、アヌシー、オタワでグランプリ獲得
―『夜明け告げるルーのうた』、『夜は短し歩けよ乙女』、2作品を世界に―
2017年の明るいニュースのひとつが、アヌシー国際アニメーション映画祭にて湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が長編部門グランプリ(クリタル賞)に輝いたことだろう。日本からの長編グランプリは実に22年ぶりとなる。
続くオタワ国際アニメーション映画祭では、『夜は短し歩けよ乙女』でグランプリを獲得。同じ年に異なる作品で4大映画祭のふたつを制する快挙となった。日本アニメの新たな顔として、その注目度をいっきに上げた。
さらに2018年1月にはNetflix初の世界同時独占オリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』が世界190ヵ国以上で配信を開始する。“湯浅政明”の名は、2017年をスタートにさらに世界に高まるに違いない。
■ CGスタジオ躍進、TVアニメ元請けに続々進出
―オレンジ『宝石の国』、デジタルフロンティア『Infini-T Force』に注目―
10年後に振り返った時に、2017年はCGスタジオ躍進の年として刻まれるに違いない。セルルックCGの広がりにより、過去数年でポリゴン・ピクチュアズ、サンジゲン、白組など、CG/デジタルアニメーションは急速に受け入れられるようになった。それでも2017年のCGスタジオの成長は、特筆すべきものだ。
活躍の場は、テレビアニメである。2017年にはオレンジが『宝石の国』、デジタルフロンティアが『Infini-T Force』でテレビアニメの元請けに初めて進出した。東映アニメーションデジタル映像部も『正解するカド』で、初の深夜アニメに挑んだ。
10月開始予定が“キングレコードの勘違い”で(公式発表)、18年1月になったが神風動画も『ポプテピピック』でテレビアニメを手がける。神風動画はこのほか、長編映画『ニンジャバットマン』の制作発表もしている。
もともとCGアニメで知られてきたグラフィニカは、10月クールの新番組では『十二大戦』を作画アニメで制作、さらに11月には手描きのアニメスタジオTYOアニメーションズ(現ゆめ太カンパニー)を子会社化している。CGからさらに総合スタジオに進む、新しいスタジオを摸索している。
2016年まで、テレビシリーズでCG/デジタルアニメを元請けできるのは、ポリゴン・ピクチュアズ、サンジゲンの2社だけであった。これに東映アニメーション、オレンジ、デジタルフロンティア、神風動画、グラフィニカが加わり、CGスタジオはテレビアニメ時代にいっきに突入した。
■ 中堅アニメスタジオの再編進む
―「ガルパン」アクタスや、「なのは」セブン・アークスが買収に―
アニメスタジオの再編、買収は、毎年いくつか起きている。しかし、2017年はとりわけそうした動きが目立った。バンダイビジュアルが『ガールズ&パンツァー』でお馴染みのアクタスを、東京放送ホールディングスが『魔法少女リリカルなのは』のセブン・アークスグループを、そしてグラフィニカがTYOアニメーションズを買収し、それぞれ子会社化している。
買収企業は映像ソフトメーカー、放送局、CGアニメスタジオと様々だ。なかでもグラフィニカが手描きアニメのスタジオであるTYOアニメーションズを買収したのは驚きを与えた。
こうした背景には、中堅アニメスタジオの取り巻く事業環境の厳しさも無縁でないとみられる。2017年は2015年、16年に引き続き、アニメーション制作は高水準を維持したとみられる。しかし、制作会社の数は多く、競争は激しい。一方、深刻化する人手不足で制作費は上昇傾向にある。スケジュールの遅れや制作の延期が発生すれば、さらにコストは増加する。
2016年末には、アサツーDKの傘下に入ったゴンゾの決算の問題が発生している。2017年には、アニメーションスタジオ・アートランド、プロダクションアイムズの事業縮小も明らかになっている。そうしたなかで、より大きな企業と手を組むことで生き残りを目指すスタジオが、今後もあっても不思議ではない。
■ ソニー・ピクチャーズ 米国日本アニメ会社ファニメーション買収
―配信ビジネス時代に両社の考えが一致―
日本だけでなく、海外における日本アニメのビジネスも急変化している。映像パッケージから配信にビジネスが大きくシフトした米国もそのひとつだ。
7月、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントは、グループ企業のソニー・ピクチャーズ・テレビジョン・ネットワークスを通じて北米最大の日本アニメ企業ファニメーション・プロダクションズを1億5000万ドルで買収すると発表した。急成長するNetflixやAmazon プライムビデオといった映像配信プラットフォームに対抗するために、配信で人気の高い日本アニメを取りこむ狙いがあるとみられる。
ファニメーションも得意とする映像ソフト事業が縮小し、事業転換を迫られていた。配信事業が拡大するが、先行するクランチロールや巨大資本のNetflixやAmazonと厳しい戦いを強いられている。ソニー・ピクチャーズのブランドと資金力を得ることで、新分野で優位な立場を築くことが可能になる。
■ スマホアプリゲーム会社のアニメ進出 DMMやDeNAが本格投資
―豊富な資金力で作品開発は、アニメビジネスを変えるのか?-
配信企業、海外企業に加えて、新たなアニメの資金の提供元として、脚光を浴びているのがゲーム会社である。なかでもオンラインゲーム、スマホアプリゲームの各社が、巨大市場からの高い利益率で得た豊富な資金をアニメに向けはじめた。
2016年のCygames Pictures設立に続き、『刀剣乱舞』でお馴染みのDMMがDMM picturesを設立した。DeNAは創通、文化放送と共同でオリジナルアニメプロジェクト「Project ANIMA(アニマ)」を開始する。2020年の放送を視野に、3つのテレビアニメシリーズの同時製作を目指す。
ミクシィもXFLAGPICTURESのブランドを掲げて、依然アニメ製作に積極的だ。恋愛ゲームアプリのボルテージもアニメ・IP 事業部を5月に立ち上げた。多くのスマホアプリゲーム会社が、何かしらのかたちでアニメビジネスに関わることを摸索している。
こうした企業の進出が長期的なものになり新たなビジネスを生みだすのか、それとも一時のブームに終わるのかは、いまはまだ見通せない。今後の動向が注目される。
■ けものフレンズの大ヒットと、続編の監督降板騒動
―世界観で勝負する作品づくりが成功―
2017年の大きなサプライズが、1月スタートのテレビシリーズ『けものフレンズ』の大ヒットであることに異論はないだろう。『けものフレンズ』は3DCGで制作されているが、少人数で、必ずしも豊富な予算で作られたわけでない。ハイクオリティなCGアニメが増える中で、異色の存在だ。
アニメの面白さ、ファンに対する魅力が、必ずしも映像のクオリティの追及だけでないことを明らかにしたのも衝撃だ。作品の世界観や演出にあたっては、監督・シリーズ構成・脚本を担当した たつき監督の役割も大きかった。
ところが9月に、たつき監督が自身のTwitterにて第2期からの降板を公表。不本意なものとしたことが波紋呼んだ。製作委員会とアニメーション制作の間での、考え方の相違が表面化した。現在のアニメ製作では原作主導、製作委員会からアニメスタジオにアニメーション制作が発注されるのが一般的なかたちだ。そのなかでの制作スタジオ、監督などのスタッフの位置づけはどういったものなのかを、考えるきっかけともなった。
■ 日本アニメ・マンガのハリウッド実写化再浮上
―「君の名は。」から「カウボーイビバップ」、「SAO」、「ONE PIECE」まで
2017年は日本のアニメ、マンガ、ゲームなどが、あらためて注目される年となった。ハリウッド実写版『攻殻機動隊』が全世界公開され、Netflixでは米国実写版『Death Note』が配信され話題を集めた。長年、企画が止まっていた『銃夢』の実写版『アリタ:バトル・エンジェル』はPVが公開され、2018年の全米公開が決まった。
とりわけ注目されるのは、新たな実写化企画の浮上だ。東宝から正式に発表されたユニバーサル、バッド・ロボットとの『君の名は。』のハリウッド実写版、サンライズからは『カウボーイビバップ』、KADOKAWAからは『ソードアート・オンライン』、集英社からは『ONE PIECE』の米国実写ドラマ企画が明らかにされている。噂されていた『ポケットモンスター』の実写版は次々にキャストが発表され、2019年5月10日の公開スケジュールも明らかになっている。
日本アニメ人気が世界的に再浮上するなかで、その価値にあらためて注目されたといえる。しかし、米国での実写化企画ブームは2000年代前半にもあったが、完成まで辿り着かなかった作品も数多い。現在、挙がっている企画の動向は、日本コンテンツのなかでもトップクラスのものばかり。その行方は気になるところだ。
■ 中東が新たなビジネスパートナーに浮上 サウジアラビと新ビジネス
―主役はサウジアラビア皇太子の直系企業―
日本のアニメが世界で人気を獲得していることは、長く言われてきた。しかし、その人気の中心は、これまで北米、西ヨーロッパ、東アジアに集中しがちだった。
しかし、配信により瞬時に日本アニメが世界発信されるなか、これまでは想像もつかなかった国とアニメでつながるケースが現れている。2017年に注目を浴びたのは中東である。なかでもサウジアラビアは、ミスク財団が東映アニメーションとのテレビアニメ・劇場アニメの製作を発表したほか、スクウェア・エニックス、デジタルハリウッド、SNKなどとの連携を次々に発表した。TBSがアラビア語圏向けの『風雲!たけし城』の製作合意をするなど、同国と日本とのエンタテイメント分野でのつながりが深まっている。
またアブダビでは、初の日本アニメ・マンガのイベント「ANI:ME」や『ONE PIECE FILM GOLD』のプレミアイベントも開催されている。
中東には、人口が多い国、所得の高い国が多くある。しかし、これまでは文化習慣の違いから進出しにくいとのイメージが強かった。これが今後どう変わるのかが注目される。