慢性的な人材不足が叫ばれるアニメ業界で、アニメーターの育成に向けて新しい取り組みが増えている。なかでも2021年4⽉より始まる「WITアニメーター塾」が注目を集めそうだ。
2月12日、アニメーション制作会社のWIT STUDIOが、今年4月より「WITアニメーター塾」を開講すると発表した。半年間にわたる動画マン育成プログラムである。
開講にあたって、映像配信プラットフォーム大手のNetflix、アニメーター育成のササユリ動画研修所と連携する。ササユリが育成プログラムを開発、Netflixは特待生制度を設けることで研修期間中の受講者の学費と生活費を負担する。
【半年間、毎週5日間の実践的カリキュラム】
WIT STUDIOは2012年にプロダクション I.G出身のスタッフを中心に都内に設立された。今年で10年⽬と歴史は浅いが、『進撃の巨⼈』や『ヴィランド・サガ』『GREAT PRETENDER』などのヒット作を次々に生み出す。
WIT STUDIO代表取締役で塾長も務める和田丈嗣氏は、「日本アニメへの需要は高まってるが人材不足が顕在している。アニメスタジオの強化が必要となっているが、日々の制作に追われる中でなかなか人材育成の余裕がない」と話す。そのなかで何か方法がないかとササユリ動画研修所を主宰する舘野仁美⽒に連絡を取り、さらにNetflixとの連携も得ることで今回の育成プログラムが生まれることになった。
新型コロナ禍でもあり、当初はササユリ動画研修所での週二回の合同研修実施と与えられた課題の自宅で取り組みを組み合わせるかたち。受講生は合わせて4⽉から9⽉までの6カ⽉間の毎週⽉曜〜⾦曜まで研修に参加する。基礎スキルから実践的なケーススタディまでを含むカリキュラムを履修することで、研修終了時には商業アニメーション制作で活躍できる動画マンになれる土台を⽬指す。募集人数は10名前後と少数精鋭だ。
【全ての土台である動画から、一人前の技術があれば稼げる】
舘野仁美⽒は、スタジオジブリで『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』などで長年動画検査を⼿がけたこの分野の第一人者。現在はアニメーターの育成に携わる。
館野氏はアニメーターの仕事のなかでも動画に注力する理由を、「一人前の技術があれば動画マンでも稼げる」、「動かす技術は、原画やキャラクターデザインなどで応用力になる」と話す。「動画はアニメーターの基礎。どんな優れたアニメーターの動きも確かな動画の技術がなければ活かせない」と、その重要性を説明する。カリキュラムでは「歩き」や「振り返り」の基礎から、商業アニメに必要なやや背伸びをした内容もカバーする。
【受講費、生活費をNetflixがサポート】
もうひとつ今回大きな特徴は、Netflixの協力だろう。受講者はNetflixが設ける特待生制度に応募することが出来る。Netflixはこの制度を通じて受講者の6カ月間の生活費(月額15万円)と授業料(60万円)を支給し、半年間の研修と生活を支える。
Netflixの協力は、WIT STUDIOとグループのプロダクション I.Gとの包括的業務提携によるパートナーシップに基づく。特待⽣制度を利⽤する受講⽣は卒業後、WIT STUDIOもしくはプロダクションI.G にて業務委託者契約者としてNetflixオリジナルアニメ作品の制作に取り組む予定だ。Netflixアニメ チーフ・プロデューサー櫻井大樹氏は、「(日本の)アニメ業界活性化は作品を配信するNetflixにとって長期的な利益になる」と話す。日本アニメ業界とのビジネスには業界支援も不可欠との考えが窺われる。
国内では深刻なアニメーター不足を背景に、サンライズやP.A.WORKSといった主要スタジオがアニメーター育成研修コースを設けることが増えてきている。今回はそれにアニメ業界内で存在感が増す配信プラットフォームが協力するかたちとなった。国内アニメ業界のまた新たな変化を感じさせる。
「WITアニメーター塾」へ応募できるのは、⽇本居住で2021年3⽉に⾼等学校を卒業⾒込み、または⾼等学校以上の18歳〜25歳まで。国籍は問わないが、⽇常会話レベル以上の⽇本語が話せることが必要だ。
2月12日には、WIT STUDIOの公式サイトに募集を受け付けページがオープンしている。ここから「WITアニメーター塾」や、Netflix特待⽣制度への応募⽅法などの詳細が確認出来る。今後も継続的にプログラムを続けて行く予定だ。
WIT STUDIO http://www.witstudio.co.jp/