日本コンテンツの海外展開が積極的になってきた。アニメ、マンガ、ゲーム、J-POP、これらがかつてないほど勢いで国外のマーケットを目指し始めている。一方で、こうした波に十分乗り切れないのが映画だ。映画配給のハードルの高さに阻まれて、海外の一般観客までなかなか浸透しない。
この状況に風穴を開けることは出来るのか?経済成長も著しい東南アジアに主にフォーカスしながら海外市場攻略の方法が、10月27日、東京・お台場で開催されたJapan Content Showcase 2016(TIFCOM)のセミナー「6.2 億人、東南アジア市場:日本映画を売りこめ!~日本映画プラットフォーム戦略からビジネス展開へ~」で語られた。
シンガポールに拠点を持ち、アジア地域で映画配給を手がけるアンコール・フイルムのジョイス・リー氏、アニメ製作会社プロダクション I.Gの代表取締役社長の石川光久氏、国際交流基金アジアセンターの許斐雅文氏の3人が意見を交わした。
トークは様々な話題に広がったが、オンラインの活用や、ライブなイベントの可能性がたびたび言及されたのが印象的だった。まだまだニッチな日本映画のプロモーションには、こうしたダイレクトな方法が有効な様である。
許斐氏は国際交流基金がアジア各国で開催している日本映画祭を統一ブランドとして展開することを提案する。作品単体での売り込みは難しくとも、映画祭としてまとまることでリーチしやすくなるという。そして、映画祭の認知度向上にはFacebookを使った施策が効果的であり、イベントとSNSが重要なツールとなる。
ジョイス氏は、アジア地域での日本映画の配給状況から話をスタート。自身が映画配給をスタートした15年前は、台湾、香港ほど日本ファンが多くないシンガポールでの邦画の上映はホラー以外になかった。状況を変えたのは、映画『デスノート』だ。当時は誰も知らない作品だったが、試しに公開したところヒットになった。これまでの常識に捉われない取り組みが時には、ブレイクスルーになる。『るろうに剣心』は、サムライ映画、時代劇の観客はいないと誰もがネガティブななかの公開であったが、異例のロングランとなった。
一方で、日本との違いも当然ある。『シン・ゴジラ』は日本では好調だったが、シンガポールやマレーシアでは赤字となった。評論家は高く評価したが、Facebookではネガティブな反応が多かったためだ。日本では明確な政治問題も、字幕をつけるのが難しく、うまく内容が届かなかった。また、一般的な人は、ゴジラにはもっとアクションを期待していたのでないかと話す。
そのうえで、アジアの若い世代は日本アニメが好きで、マンガ好きが多いと説明する。そこで若い人にアプローチできるSNSであるFacebookやインスタグラムの活用が成功している。映画は各国で公開日が異なることから、アカウントも国ごとに変えるなどの工夫もしている。
また日本映画はアニメだけでなく実写もコスプレ的でSNS的なところがあり、SNSを使うような人たちをターゲットにしている。日本から俳優は来ないが、ガラプレミアのようなイベントを開催することを大切にしているという。
アニメ映画を多く製作するプロダクション I.Gの石川光久氏は、吹替えをすることで、その国の言葉でキャラクターを届けられるとアニメの強さを説明する。また幅広く、多種多様な作品があることがアニメの大きな特徴だという。
アニメと実写映画が近いとの意見は、ジョイス氏と同様だ。『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督が実写映画『シン・ゴジラ』を撮り実績を残す。実写映画で業績のある本広克広監督がプロダクション .Gに所属しアニメを撮る。日本ではアニメと実写がボーダレス化しているのが面白い現象だと話す。
最後にジョイス氏は、日本映画が海外を目指す際に、映画の視聴が劇場からオンラインに移行していることが重要だと指摘した。
それにもかかわらず、日本の映画を合法的に鑑賞できるプラットフォームがないとことが問題であると。さらに映画の配信開始が映画公開よりかなり遅く、公開より何年も後になり、違法で観る人も増えるともする。日本アニメの海外進出には、まだまだ日本側出来ることは多く残されている。そんなことを感じさせるシンポジウムであった。