海外向けのマンガ展開で課題になっていたファンが手軽に利用できる正規配信の新たな試みが、この4月にスタートした。毎月4.99ドルの定額課金(サブスクリプション)でマンガが読み放題になるスマートフォンアプリ「Mangamo」である。
4月15日よりApp StoreでiPhone とiPad向けのアプリのダウンロードを開始。スタート当初は英語翻訳版約300タイトルを用意した。近日中に1000タイトルまで増やす予定。作品の提供は、講談社、コミックスマート、凸版印刷、ノース・スターズ・ピクチャーズを含む11社が協力する。
読み放題作品には『進撃の巨人』、『ソマリと森の神様』、『炎炎ノ消防隊』、『アルテ』など、人気作品も多く含まれている。これまで英語翻訳版がリリースされていなかった作品の初の翻訳版も売りとなる。『邪神ちゃんドロップキック』、『リセット・ゲーム』、『日常メテオストライク』といった作品だ。
ユーザーはこうした作品を広告なしでいつでも楽しめる。またスタートから2ヵ月間はトライアル期間として無償で提供する。かなり思い切った盛りだくさんのサービスになる。
Mangamoはプロジェクトの立上げの理由に、日本国外での日本マンガ単行本の価格の高さをあげる。北米では一般的なマンガ単行本は1冊10ドルから15ドルと、日本の2倍から3倍以上となっている。この価格設定が読者をマンガから遠ざけているとする。「Mangamo」の月5ドルを支払えば、一冊読んだだけでもファンにとっては元が取れる。
もうひとつは海賊版の横行だ。正規版のリリースの少なさが海賊版を生み出す。海賊版により日本マンガ業界は年に数千億円の売上げを失っているとMangamoは説明する。手軽に正規でマンガを読める環境を整えることで、ファンがよりマンガにアクセスでき、海賊版の横行も止める狙いもある。
「Mangamo」のサービスは、サブスクリプションに限らない。広告付きの配信や、基本無料追加課金、読んだ量に応じた従量課金といった様々な仕組みに挑戦する。ビジネスモデルを固定することなく、いろいろ試すなかで最適な方法を探る狙いもありそうだ。
Mangamoを立ち上げたのは、エイベックス・アジアでの映画ビジネスやHuluジャパンの日本代表で経験の豊富なブディ・マリーニ氏。CEOも務める。このほかにもクランチロールやNetflixといった映像・アニメの定額配信ビジネスのグローバル企業や米国の日本マンガ出版VIZメディア出身者が運営に参加する。プラットフォームの運営では、こうした経験が威力を発揮するだろう。
しかし「Mangamo」成功の鍵は、むしろどれだけ魅力的な作品を集められるかになりそうだ。国内同様に海外でも、マンガベストセラー上位には集英社「少年ジャンプ」の作品が集中する。しかし少年ジャンプ編集部はすでに、独自の定額課金アプリ「MANGA Plus」を運営し、かなり成功を収めている。「Mangamo」に参加する可能性は高くない。
ユーザーの魅力を掴むには、集英社以外の全ての出版社するぐらいのインパクトが必要だ。現時点で「Mangamo」に参加する大手出版社は講談社のみだ。価格や使い勝手の魅力はあってもラインアップは十分とはいえない。コンテンツ調達は、これまでにも新興のコンテンツ配信企業の課題であった。有力作品の調達問題をいかに克服するかが注目される。