NETFLIXアニメラインナップ発表イベント オリジナルタイトル一挙公開で狙うアニメのグローバル化

「Netflix アニメスレート 2017」

[日本アニメをメインストリームへ NETFLIXの狙い]

 2017年8月2日、東京・有楽町の東京フォーラムで、世界最大の映像配信プラットフォームNETFLIXが「Netflix アニメスレート 2017」を開催した。今後配信を予定する『DEVILMAN crybaby』や『リラックマ(仮)』を初めとする新作オリジナルタイトルから、配信中の『BLAME!』、『リトルウィッチアカデミア』まで、アニメタイトルを一挙に紹介した。その数は実写作品を含めて21タイトルにも及んだ。
 合計で4時間を超えるイベントでは、『バキ』、『A.I.C.O -Incarnation-』、『LOST SONG』、『聖闘士星矢』など、今回初めてタイトルを明かすものも相次ぎサプライズに溢れるものになった。さらに『DEVILMAN crybaby』からの湯浅政明監督、声優の内山昴輝、村瀬歩など、ゲストも多数登壇し、イベントを盛り上げた。

 相次ぐ新発表、意外なタイトルと、作品そのものも勿論だが、さらに驚かされたのはイベントの規模である。東京国際フォーラムという都心の会場に国内外からのゲストが登壇した発表には、日本だけでなく、海外の記者も招いたという。さらに来場者には軽食やおみやげまで準備され、至れり尽くせりだ。
 一体、どのくらいの予算がかけられたのかと不謹慎ながら考えてしまうほどだ。実際、国内でアニメを製作し、そのビジネス規模を考えた時に、逆算すれば宣伝にかけられる予算は計算できる。しかし、今回は従来の常識では辻褄が合わない。

 それでは「Netflix アニメスレート 2017」はなぜこんなにも大規模だったのか? その答えは、NETFLIXの考えるアニメの位置づけにあるのでないだろか。挨拶をした同社のチーフ・プロダクト・オフィサーのグレッグ・ピーターズ氏は、「NETFLIXは世界のアニメファンに作品を届けるだけでなく、新たなアニメファンを作りだす」とたびたび強調した。
 ユーザーの嗜好に合わせて作品をプッシュするNETFLIXのリコメンド機能はよく知られているが、これを使いアニメを観たことのないユーザーに作品を薦める。それによりアニメの認知度はさらに広がるという。
 またNETFLIXでの日本アニメの視聴の9割以上は日本以外の国からだという。ピーターズ氏が紹介した国ごとに色分けされたアニメに対する各国ファンの熱を示す世界地図では、東アジア・西ヨーロッパだけでなく、南北アメリカやオセアニア、ポーランドやルーマニアの東ヨーロッパ、さらに中東のサウジアラビアまでがアニメをよく視聴していることが分かった。

 つまりアニメは日本だけに向けたローカルなタイトルでも、限られたファンに向けたニッチ(隙間)ジャンルでもない。世界中の一般的なユーザーに向けている。
 さらにNETFLIXはこれらをレコメンドすることで、アニメのメインストリーム化を進める。全世界1億人以上のユーザーに向けているとすれば、これまでのアニメ業界の常識とかけ離れた予算も正当化されるわけである。

[求められる作品は、有名ブランドに実績主義]

 そのNETFLIXが考える優れたコンテンツ、一般層が観る作品はどういったものだろうか? これまでの発表された作品からはかなり明確な特徴が分かる。具体的に、次のような要素が見られる。

 □ ヤングアダルト向け(特にSF・ファンタジー・アクション・バイオレンス)
 □ 誰でも知っている有名ブランド(実績のある作品、キャラクター、スタジオ)
 □ ハイクオリティ、最高の作品

 ひとつは『BLAME!』や『悪魔城 ドラキュラ‐キャスルヴァニア』といった作品で分かるヤングアダルト志向、さらにSF、ファンタジー、アクションである。NETFLIXはこのヤングアダルトに向けたアニメに一般性があると考えているようだ。またテレビ番組では表現が制限されるバイオレンス描写もキーになる。今回の作品紹介でも、司会者がティザー映像でたびたび来場者に表現に注意を促すほどだった。
 もうひとつは、ブランド主義である。「ゴジラ」「デビルマン」「009」「聖闘士星矢」、さらに「リラックマ」まで。長年世界中で愛されてきたビッグネームが並ぶ。ブランドは作品、キャラクターだけでない。「プロダクションI.G」や「ボンズ」、「サテライト」、「ドワーフ」といった大ヒット作を生みだしたスタジオもまた確かな実績を持つブランドである。NETFLIXは、認知度の高いブランド、クリエイター、スタジオを好んでいる。
 今回は、発表された作品のティザー映像の素晴らしさにも驚かされた。人手不足が指摘され、作品のクオリティーの維持が大変とされるなかで、どうやってこの映像を実現するのかというほどだ。制作に通常の作品を大きく上回る資金が投じられていることは容易に予想がつく。制作資金を多く投入する代わりに、最高水準の作品を要求されているわけだ。

 過激なアクション・バイオレンスとなると、NETFLIXはかなり自由な企画・製作が認められると思える。しかし、それは視聴者を容易に選別できる配信の特性に過ぎない。アニメの作り手が新しいメディアの新しい企業だから、新しい表現やこれまでにない題材に目を向けてくれるだろうとNETFLIXに期待すれば、肩透かしを喰うだろう。
 NETFLIXが期待するのは、すでに認知度が高い原作やキャラクター、クリエイター、スタジオなのである。その中でヒットしたジャンルの、さらに最高の作品が欲しいのだ。それがユーザーの欲しているもので、ビジネス的なリスクも少ない。NETFLIXの作品選択はむしろ保守的なのである。

[全方位外交?日本のトップアニメ企業が揃い踏み]

 最高水準のクオリティーの作品を制作するとなる、実際にそれを実現できるスタジオは限られてくる。しかし、この点でもNETFLIXは周到である。
 今回一番興味深かったのは、NETFLIXの作品におけるビジネスパートナーを組む会社である。ざっとこんな具合だ。

『DEVILMAN crybaby』 = アニプレックス/サイエンスSARU
『B: the Beginning』 = プロダクションアイジー
『A.I.C.O -Incarnation-』 = ボンズ/バンダイビジュアル
『LOST SONG』 = LIDENFILM(ウルトラスーパーピクチャーズ)/ドワンゴ
『聖闘士星矢』 = 東映アニメーション
『バキ』 = トムス・エンタテインメント
『ゴジラ 怪獣惑星』 = 東宝
『BLAME!』 = ポリゴン・ピクチュアズ/キングレコード/講談社
『リラックマ』 = サンエックス/ドワーフ

 日本の主要なアニメスタジオ、そして大手のアニメ会社が、万遍なく並んでいる。NETFLIXと言えば、ポリゴン・ピクチュアズとの数作品にわたるパートナーシップが知られている。しかし、実際は特定の企業というよりも、出来る限り広く、多くの業界のメインプレイヤーと事業をしている。
 ここからもNETFLIXのハイクオリティ主義が窺える。日本のトップスタジオの一番いい作品を集めるというわけだ。逆に言えば、今回発表されたタイトルは数が多いと言っても、1シーズンに2、3作品とみられる。作品の量は追わず、厳選された作品をラインナップしていることがわかる。

[変わるアニメの概念 日本への影響は?]

 さらに興味深いのは、今回の発表でNETFLIXの考える「ANIME」が、日本のファンや業界関係者が考える「アニメ」とはだいぶ異なっていることだ。イベントのタイトルは「NETFLIX アニメスレート 2017」だったが、発表にはアニメ以外のタイトルも少なくなかった。
 ひとつは実写作品である。『僕だけがいない街』、『炎の転校生』はマンガを原作とした日本の実写ドラマ。『DEATH NOTE』は同じくマンガ原作のハリウッド映画である。マンガ原作、アニメ化もされたことのある実写作品はアニメのジャンルの周辺と見做されている。
 海外作品も少なくない。『悪魔城 ドラキュラ‐キャスルヴァニア』は日本のゲームを原作にした日本アニメスタイルだが、製作は米国スタジオである。『ヴォルトロン』は日本の往年の人気アニメをドリームワークス・アニメーションがアニメスタイルでリメイクした。『キャノン・バスターズ』は、海外企画・原作・脚本のアニメーション制作パートだけを日本のサテライトが担当する。
 さらにリメイクとなる東映アニメーションの『聖闘士星矢(仮)』の脚本は、海外のアニメーション作品で活躍するライターを起用する。日本でなく、海外のクリエイターが主導権を握る作品が少なくない。

 NETFLIXは、「ANIME」がいまや世界で戦える強力なコンテンツと考えている。しかし、それは必ずしもオール日本製である必要はない。「アニメスタイル」、「高いブランド力」、「ハイクオリティ」を実現してれば、むしろ全く日本が関わっていなくても構わない。
 今は日本の作り手に、企画を生みだす力や原作に優位がある。だからこそ世界のメディアを集めて東京で今回の発表会が開催されている。しかし、それはいつまで持つのだろうか?
 これまで日本アニメは孤立しているが故に独自性があり、他国にまねが出来ない作品を生みだしてきた。それはニッチだが、時として強い競争力を生みだしてきた。
 しかし、もし日本アニメがメインストリームに移るなら、独自と思われてきたものもグローバルで共有される。そうなった時に日本の独自性、優位性も消えてしまうかもしれない。そうなれば、日本のスタジオやクリエイターは世界と同じレベルで戦わなければならない。

 『悪魔城 ドラキュラ‐キャスルヴァニア』のエグゼクティブプロデューサーのアディ・シャンカル氏、『キャノン・バスターズ』のエグゼクティブプロデューサー・監督・脚本のラション・トーマス氏が、図らずも同じことを言っていたのが印象に残った。
 米国ではこれまでアニメは子どものもので、こうした作品を実現する機会はなかった。しかし、NETFLIXによって初めて可能になったという。つまり、これまでは作る機会がなかっただけで、チャンスを与えられれば優れた才能と作品は海外からも出てくる。NETFLIXが目指すアニメのメインストリーム化は、日本にとっては強力なライバルの登場を促しているのかもしれない。

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