2017年6月12日から17日、フランスで世界最大のアニメーション映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭が開催された。日本では湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』が長編部門グランプリを、審査員賞を片渕須直監督『この世界の片隅に』が獲得して話題になった。
しかし、映画祭の2017年の目玉のひとつが中国であったことはあまり言及されていない。アヌシーは毎年ゲスト国を定めて、その国のアニメーションをピックアップするが、2017年はそれが中国であったのだ。
期間中は、クラシックから新世代まで幅広い中国アニメーションが上映され、国際見本市MIFAには大きなナショナルブースが設けられた。また、MIFAのオープニングパーティーは「CHINA NIGHT」と名付けられ、中国をアピールした。
アヌシーでも拡大する中国映画産業は大きな存在感を放ったと言いたいところだが、実際の印象はその逆だ。日本での中国アニメーション業界の急激な進出を知る立場からすると、むしろ意外なほど静かだった。
上映企画はあるが、カンファレンスやセミナー、トークセッション、あるいは作品紹介の「Work in Progress」「Making of」では中国の姿はほとんど見られない。むしろ、今年こうした企画に積極的に参加した日本のほうが目立ったぐらいだ。
確かに中国のイメージカラーである赤で統一したMIFAのナショナルブースはインパクトがあった。しかし、中国の出展は昨年、一昨年と増加しており、今年はそれが一ヶ所に集められただけで、前年から急拡大していない。そのブースが賑わっているようにも見えない。
もちろん国際見本市のブースの賑わいが、実際のビジネスとイコールでないのはよくあることだ。ブース以外の場所で大きなビジネスが行われることは少なくない。それでもその様子は、今回の受けた肩透かしの印象を象徴していたようにも思えた。
この理由は何なのだろうか? ひとつはビジネスの種類の問題かもしれない。生産量だけとれば世界一となった中国だが、その作品の多くはまだ輸出番組としての魅力が充分でなく、海外企業の関心が薄い。またバイヤーとしての中国にとっては、MIFAの中心となるキッズファミリー向けのテレビ番組、映画は輸入制限が厳しい分野で、なかなか買付けできないだろう。
あとは業務提携や、共同製作になる。しかし、これこそ表に見えない部分でのビジネスで、映画祭では見通しづらい。
もうひとつ、今回、映画祭では中国作品を巡る事件が起きている。当初、長編部門でコンペインが発表されていた中国のリュウ・ジェン監督の『HAVE A NICE DAY』が直前で出品を取り下げた。作品のテーマが中国の裏社会を描いたものだけに、取り下げの理由が取り沙汰されている。映画祭からは出品取り消しの理由は説明されておらず、むしろそれが公にしたくない理由があるのでないかと勘繰らせる。
表現の自由を歌い上げるはずの映画祭での出来事だけに、それは中国とのビジネスの難しさを、逆に感じさせる。
一方、海外とのつながりとは別に、中国のアニメーション映画市場は着実に成長している。映画祭に合わせて、中国の英字映画業界誌「The Chinese Film Market 華語電影市場」は、アニメーション映画特集を組んだ。
これによれば、中国の2016年のアニメーション映画の興行収入は前年比57%増で約70億元(約1140億円)に達した。2014年からわずか2年間で倍だ。また公開されたアニメーション映画は、2013年の36本から16年には66本まで増えた。劇場興行の伸びは米国のCG映画に牽引されているが、今回アヌシーのコンペティションにも入った『大魚海棠』や、『西遊記之大聖帰来』といった大ヒット作も生まれ始めている。中国のアニメーション業界は大きく変っている。
映画祭期間中、2019年の韓国・ソウルで「アヌシー アジア アニメーション映画祭」の開催が発表された。その意義として、世界のアニメーションの50%はアジアで制作されていることを挙げた。
近年、急激に世界戦略を進めるアヌシーにとって、アジアマーケットは無視できない。それが2017年の中国イヤーや「アヌシー アジア アニメーション映画祭」につながっている。しかし、今年のアヌシーだけを見れば、中国の取り込みは十分な成果をあげられなかったのではないだろうか。