フランスで映画・映像文化・産業振興を担う国立映画センター(Centre national du cinéma et de l’image animée:CNC)は、アヌシー国際アニメーション映画祭の開催に合わせて2023年のフランスのアニメーション市場の最新動向を発表した。2024年6月11日にMIFAの会場で「アニメーション市場の潮流:Animation Market Trends」と題したパネルを開催、年次レポート「Le marché de l’animation en 2023」の刊行とその概要を披露した。
国内外でアニメーション産業の成長や重要性に対する関心が高まっているが、世界的にみても信頼できる統計、調査は少ない。国ごとのアニメーション市場の調査統計を集計しているのは、フランス、日本などごく少数にとどまっている。それだけにCNCのレポートは貴重だ。
CNC によれば、2023年のフランスのアニメーション制作金額は2億3800万ユーロ、日本円で約404億円だった。2022年比では30.3%増の大幅増になるが、これは2022年がプロジェクト延期などが相次いだことから2018年以来、最も低い水準であった反動のためだ。
実際には2021年の3億1400万ユーロや2017年の2億6900万ユーロより低い水準で、2010年代後半の平均的な水準から大きな差はない。過去10年ほどのフランスのアニメーション市場は、成長市場というよりも安定市場というのが相応しい。
金額ベースでなく生産量で見ると、総制作時間は302時間(18120分)となる。こちらは前年比25.6%増で金額ベースより伸びが低い。ここから制作単価が前年より伸びていることが分かる。
日本動画協会が集計する「アニメ産業レポート2023」によれば、近年の日本のテレビアニメと映画を合わせた製作収入(放送・興行の分配収入を含む)は、1000億円から1100億円となっている。フランスのアニメーション制作市場は日本の半分程度と言ってよさそうだ。
一方で、日本の年間アニメーション制作はテレビシリーズだけで10万分を超えている。フランスは日本に較べて少量制作高単価であることが分かる。
作品の製作費を負担するのは、製作会社、配給会社である。全体の23%をフランスの製作会社、22%を配給会社が負担している。また海外資金が23%となっており、CNCからの資金援助も18%と大きい。これは実写映画の12%を上回っている。
またフランスのアニメーションの輸出先は、トップが米国、次いで中国、イタリア、ドイツ、英国となっている。日本は上位5ヵ国に入っていない。さらにフランスとの海外共同製作の上位はベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、カナダ、イタリアで、日本は上位10ヵ国に入っていない。日本アニメの輸出を別にすれば、フランスと日本のビジネス的なつながりは必ずしも強くない。
日本の存在感が大きいのはシリーズ番組で、特に配信である。フランスではアニメーション制作における放送局の存在が大きいが、テレビで人気の高い作品は、『パウ・パトロール』(米国)、『Top Wing』(カナダ)、『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』(フランス)、『Boy Girl etc.』(フランス)、『GUS, THE ITSY BITSY KNIGHT』(フランス)と北米とフランスが上位を占める。しかしアニメーション番組のテレビ放送時間は減少傾向にある。子どもたちの視聴時間も同様に減少傾向だ。
一方で、配信視聴が伸びている。CNCでは2023年の調査から日本アニメに強いクランチロールを加えたことから数字が大きく変化した。クランチロールが提供するアニメーションのエピソード総数は2万6269本に及び、Netflixの1万7201本、プライムビデオの1万7034本を大きく上回る。
これにより2023年にフランスで配信にて15歳以上で最も観られたアニメーション番組のベスト10の6本が日本アニメとなった。1位は米国の『ザ・シンプソンズ』だが、2位に『鬼滅の刃』、3位に『ヴィンランド・サガ』、4位に『範馬刃牙』、5位に『NARUTO』、6位に『FAIRY TAIL』と続く。これまでアジアで強いとされてきた『名探偵コナン』も10位となっており、フランスに浸透していることが分かる。日本アニメの主戦場はテレビでなく配信であり、配信の成長により人気も広がっていると考えてもよさそうだ。
CNCのレポートでは、自国だけでなく海外の状況も報告している。例えば調査によれば、フランスはアニメーションシリーズ制作で世界第4位の規模としている。2023年から24年の年間の制作タイトルは39作品。1位は日本で226作品、2位米国の99作品を大きく引き離す。3位は英国の48作品、韓国も39作品でフランスと並ぶ。
また企業グループ別ではNetflixが41作品、ディズニーが37作品、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが32作品と米国系が上位を占めたが、CNCではNetflixとディズニーの作品数の減少が顕著だと指摘する。
日本の存在感も大きく、KADOKAWAが32作品、フジテレビが31作品、一橋グループ(集英社・小学館など)30作品、ソニーが29作品と挙げている。日本との製作会社の区分がやや異なるので、こちらは参考程度と考えたほうがよさそうだ。
また日本アニメは全体の57%をSF・ファンタジーが占めており、キッズ・ファミリー向けは3%に過ぎない。これはキッズ・ファミリー向けが92%を占めるフランス、96%を占める英国と対象的だ。米国はこれが73%とやや低くなる。世界で注目を集めつつある大人向けのアニメーションだが、現在でもヨーロッパを中心にテレビアニメーションはキッズ向けが主流だ。CNCの調査からは依然、大人向け作品は日本の独壇場であることが分かる。