
■長編コンペには引き続き話題の日本作品が
2025年6月8日から14日までフランスにて開催されるアヌシー国際アニメーション映画祭の上映作品、関連プログラムが出揃ってきた。世界最大規模、各国から作品や情報が集まることから、近年は日本からの参加も急増し、作品のプレミア上映や初出し情報も増えている。
それでは2025年は日本からどんな作品、トークが登場するのだろう。ここで主なプログラムを見てみたい。そこからは海外に向けた日本のスタッフや製作者などの現在の方向性も読み取れる。
映画祭のなかでもとりわけ注目されるのがコンペティション部門である。世界中から集まった新作から選りすぐった作品を上映し、国際審査委員がアワードを決定する。受賞をすれば大きな評価だが、オフシャルコンペに入るだけでも高い評価を受けている証になる。
2025年のオフィシャルコンペティション長編部門では、全10作品のうち日本から2本が選ばれている。木下麦監督の『ホウセンカ』、スタジオ4℃制作・青木康浩監督の『ChaO』だ。日本公開も明らかにされているが、アヌシーがワールドプレミアになりそうだ。また製作がフランス/ベルギーのため日本作品とはならないが監督が日本の瀬戸桃子である『Dandelion’s Odyssey』もオフィシャルコンペの一本だ。
斬新な表現・新しい映像をテーマにしたもうひとつの長編コンペティション部門コントレシャン部門には、日本では5月16日に公開された鈴木竜也監督の『無名の人生』が選ばれた。話題のインディーズ作品である。
■短編オフィシャルコンペは日本から対称的な2作品
2025年は短編部門により注目したい。これまで日本から選ばれる本数は決して多くなかったが、今年は各部門で活躍が目立つ。短編オフィシャルコンペティションには、すでにベルリン国際映画祭で短編部門銀熊賞にも輝く水尻自子監督の『普通の生活』が登場。
そして大平晋也監督の『Star Wars: Visions「Black」』は、ディズニー+で配信される「スター・ウォーズ:ビジョンズ」シリーズの一本である。大平晋也は1980年代より商業テレビアニメや劇場映画で活躍するベテランアニメーターである。インディーズのアニメーション作家の作品が大半を占める短編オフシャル部門に、米国の巨大フランチャイズ作品がコンペインするのはかなり異例のことである。それだけ本作「Black」の注目が高いとも言える。
またオフリミット部門では、海外映画祭ではお馴染みの実力派である折笠良監督の『落書』が選ばれた。オフリミット部門の作品は全部で9作品のみ。
■学生部門に4つの大学から4作品の快挙
今年のうれしいサプライズは、学生部門の充実である。日本からはオウ・セイさんの『Hand』、伊藤里菜さんの『私は、私と、私が、私を、』、木原正天さんの『Q』、そして山中千尋さんの『霞始めてたなびく』の4本が、45作品のなかに選ばれている。
学生部門は例年、ヨーロッパの作品が強さを発揮する傾向がある。アジアでは今年は日本以外では中国2作品、韓国、ベトナム、シンガポールが各1作品であることを見れば、日本の成果の大きさも分かるだろう。さらに今回は出身大学が武蔵野美術大学、東京造形大学、多摩美術大学、東京藝術大学といずれも異なっている。日本の複数の大学が教育において成果を築いていることになる。
このほかTVシリーズ部門のコンペティションに日本アニメーションの『アン・シャーリー』、ボンズ制作の『メタリックルージュ』。
VR部門コンペティションには、XR分野の作品で実績を重ねるCinemaLeap制作の『ロマンスカー』、ガンダムシリーズを新たな映像で描く『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』がある。『ロマンスカー』はフランスとインドネシアの血を引き京都在住のジョナサン・ハガードが監督する。『銀灰の幻影』は、フランスのアトラスⅤとバンダイナムコフィルムワークスとの共同制作と国際映画祭に相応しいハイブリッドな体制で作られた。
■コンペ以外も注目、湯浅政明監督や片渕須直監督が登壇
今年、新たにアウト・オブ・コンペと区分されたコンペティション以外の長編作品にも日本作品がいくつかある。アウト・オブ・コンペは3部門から構成される。
アヌシープレゼンツでは前作『音楽』が世界的に話題となった岩井澤健治監督の『ひゃくえむ。』が上映される。ミッドナイト・スペシャルは深夜上映のプログラムで、大人向けの作品が並ぶ。日本が得意とする分野でもあり、上映5作品にうち3作品が日本からだ。桜坂洋の小説を原作にする『All You Need Is Kill』はSTUDIO4℃が制作、さらに『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』と坂本サク監督の『Nightmare Bugs』になる。日本のアニメーション映画の多彩さを示すことになりそうだ。
コンペティション部門以外でも、長編映画は紹介される。日本だけでなく世界から話題を呼びそうなのが、ワーキングプログレス部門に登場する湯浅政明監督の『ひな菊の人生』だ。
ワーキングプログレス部門は現在制作中、未完成作品を紹介する。これまでにアヌシーで4回のコンペイン、長編部門クリスタル賞受賞の巨匠・湯浅政明の久々の新作になる。関心を呼ばないわけがない。映画祭の公式サイトでは湯浅政明監督のほか日仏の制作スタッフ、プロデューサーの登壇が告知されている。
さらに片渕須直監督の『つるばみ色のなぎ子たち』もこの部門になる。平安文学の偉人・清少納言を新たな視点から描く作品だ。こちらは片渕監督のほか監督補の浦谷千恵、プロデューサーの大塚学の登壇が予定されている。