■3年ぶりのリアルなメディア芸術海外展開事業
2022年6月13日から18日までフランスでアヌシー国際アニメーション映画祭と国際見本市MIFAが開催された。いずれもアニメーション分野では世界最大規模として知られたイベントだ。コロナ禍の影響を受けて20年はオンライン、21年はリアルとオンラインのハイブリットだったが、世の中が落ち着きをみせたことから3年ぶりの完全リアル開催が実現した。
これに合わせて日本アニメーションの文化発信も3年ぶりにアヌシーに帰ってきた。毎年、特徴のあるプログラムが現地で注目されてきた文化庁「メディア芸術海外展開事業」である。今年は「自由な発想、大胆な挑戦 ~日本の女性アニメーション制作者たち:Women Creator in Japanese Animation」をテーマに、MIFA会場内ブースでの企画展示、関連作品トークを交えながらの上映会、そしてプロデューサーと監督によるトークセッションである。
企画ディレクターは東京藝術大学大学院教授、副学長の岡本美津子氏。さらに企画コ・ディレクターとして東映アニメーションの関弘美プロデューサー、自らもアニメーション作家で東京造形大学准教授の若見ありさ氏が協力した。
■「女性アニメーション制作者」をテーマに企画展示と上映会
企画展示は毎回異彩を放っている。見本市会場のMIFAではビジネスで売り出したい作品や、ビジネスディールのための机や椅子を各国企業・団体が質素に並べることが多いからだ。その中で日本のメディア芸術祭ブースは、アニメーションの映像、そして絵コンテ、原画などの制作素材やクリエイターのプロフィールを並べる。日本アニメーションの体験の場とする。他にないだけに強い印象を残し、カルチャー発信として大きな効果を発揮する。
今回はタイトルに合わせて女性スタッフの仕事とキャリアを追った。映画祭上映作品からテレビ部門オフィシャルコンペ『Sonny boy』美術監督の藤野真里氏、短編オフィシャルコンペ『骨嚙み』(矢野ほなみ監督)、『不安な体』(水尻自子監督)。
それ以外からも映画『魔女見習いをさがして』から鎌谷悠監督と作画監督の中村章子氏、『平家物語』から山田尚子監督と脚本の吉田玲子氏といった具合だ。さらにインディーズから『I’m Late』(冠木佐和子監督)、『Blink in the Desert』(副島しのぶ監督)、『游子の子』(G9+1「穴」)(一色あづる監督)が取り上げられている。
日本のアニメーションというとテレビシリーズや大型劇場作品に注目が傾きがちだ。しかし毎回インディペンデント作家との双方でバランスを取り、日本のアニメーションの多様性を示す。人気ゲームキャラクターのプロモーションのための短編『Pokémon Special Music Video 「GOTCHA!」』(松本理恵監督)は、それを象徴する。決して数は多くないが充実したラインナップである。
作品は映像だけに、展示に合せた上映イベントも実施された。6月16日に作品と現地を訪れたクリエイターのショートトークもつけてスクリーン上映、参加者から好評を博した。
■映画『魔女見習いをさがして』が題材、若者に語るアニメの作り方
6月17日には、「ガールズアニメが切り開くアニメの未来」と題したトークも実施された。学生と若手クリエイターをターゲットにしたセミナーで、会場には多くの若いアニメーション関係者が集まった。
登壇したのは東映アニメーションの監督である鎌谷悠氏と関弘美プロデューサーである。2人が手掛けた映画『魔女見習いをさがして』を題材に、いかに企画と映像を作り上げていったかを紹介した。
本作が少女向けのシリーズ『おジャ魔女どれみ』の20周年としながらなぜ新しいキャラクターを主人公にしたのか、そのなかでいかにキャラクターを作り上げていったのかは特に印象に残る話だった。関はストーリーづくりにあたって、かつて「どれみ」を見て成長をした人たちが、いま何を見たいのかを綿密な調査をしたという。それを参考に3人の主人公に異なる特徴を持たせて、その世代の誰もが共感できるキャラクターとした。
若い参加者ということでもっとファン的な雰囲気もあるかと思っていたが、むしろ作り手としてのプロらしさが全体から感じられた。鎌谷監督が自社教育のなかで使っている資料などを見せると真剣さで張り詰めた空気が漂うほどだった。
最後に二人からの若い世代へ届ける言葉でセミナーは締めくくられた。関氏は「若いクリエイターはガラスのようなハートを持つ人が多い。でも批判されても意見を交換することが大切」と、批判を受けることを怖れず人の意見を聞くことの重要性に言及した。
また鎌谷監督は「今回は女性(のキャラクター)を取り上げたが、キャラクターに説得力を持たせるには男女は関係ない」と。そして今後の仕事として劇場映画『SLAM DUNK』に取り組んでいることを紹介した。
1時間半にも及ぶセミナーであったが、ぎっしり詰められた内容は、実際の時間以上に感じられた。女性アニメーション制作者とのテーマだが、実際の内容は女性だからというよりも普遍的なアニメーション制作についての知識が中心だった。
それでも女性の活躍が少ないと思われている日本で、アニメーション業界に豊かな才能を持つ女性が多数いることはアピールできたはずだ。それは今年のアヌシーに訪れた日本のプロデューサー、スタッフのかなりが女性であったことからも分かったに違いない。
また参加者の真剣な様子からは、やがてこのセミナーに影響を受けたクリエイターが世に羽ばたく日も来るのでないかと思わせた。