スクウェア・エニックスが、出版事業であらためて英語圏市場の攻略に動く。米国現地法人がマンガ・小説などを自社で発売する方針であることが明らかになった。
2019年5月17日、米国に本社を持つ出版社ペンギン・ランダムハウス(Penguin Random House Publisher Services (PRHPS))は、スクゥエア・エニックスとマンガ・小説の英語版の流通の複数年契約で合意したと発表した。スクウェア・エニックスはマンガのほか小説やアートブックも含んだ新レーベルを2019年秋よりスタートする。PRHPSがこれらの書籍の北米、そして世界の流通を手がける。
スクウェア・エニックスは英語翻訳版のマンガ出版では、これまで現地出版社に翻訳ライセンスを与えるかたちにしてきた。これを新たに自社の直接刊行に切り替える。この流通をペンギン・ランダムハウスが担当する仕組みだ。
第1弾の作品は、同社の人気ゲーム『FINAL FANTASY XV』の小説『FINAL FANTASY XV: The Dawn of the Future』、そして『ハイスコアガール』、『おじさまと猫』となる。そして世界的なヒット作『ソウルイーター』の完全版も加わる。
最初のラインナップにゲームの小説版が含まれているのは、日本からやや意外に映るかもしれない。しかしゲーム連動タイトルは北米では安定した人気ジャンルだ。また大ヒット作『ソウルイーター』を含めるなど、現在のマーケケットもかなり意識したラインアップだ。
スクウェア・エニックスの国内出版事業は、2019年3月期で売上高140億円だ。国内では中堅出版社規模、スクウェア・エニックス内では全体売上高の6%程度といずれも注目されにくい。
しかし営業利益は39億円と高収益事業である。また売上の大半をマンガが占めていること、アニメやゲーム関連作品が多いことから、海外マーケットに可能性があるとみたようだ。
もともとスクウェア・エニックスは英語圏の展開に熱心であった。これまでも複数の米国翻訳出版社から英語版を発売している。他方で現地での流通やマーケティングの弱さの問題に直面していた。2010年頃にはデジタル出版で海外進出を試みたこともあった。しかしこのデジタル展開は成果が残せず撤退している。
さらに現地日本マンガ出版社の寡占化が進み、長年、ビジネスのつながりの大きかったYenPressがKADOKAWAに買収されるなど、有力なパートナーを持てずにいた。そこで今回の現地直接進出の判断になったようだ。
流通を担当するペンギン・ランダムハウスは、2013年に米国の大手出版ランダムハウスと英国の大手出版ペンギンの合併により誕生した世界最大の出版社である。その流通に乗れば、北米と英語圏の大手書店の棚にタイトルを並べる大きな力を持つ。
それでも大規模な流通の乗せるほどのヒット作を次々に出版できるのか、翻訳や編集・校正・マーケティングのどれだけのマンパワーを割けるのか、課題は大きい。一方で大きなチャンスがあるのも事実。今回の決定は、スクウェア・エニックスの海外マンガ事業の転換点になりそうだ。