東京国際映画祭で語られた「アニメーションの表現」多彩なトークイベントが登場

「アニメーションの表現」

 2023年10月23日から11月1日まで開催されている第36回東京国際映画祭は、昨年より上映本数、ゲストが大きく増え、盛り上がりを見せている。
 映画祭の楽しみは、国内外の最新作・話題作をいち早く観られることに加えて、監督やスタッフなどが登壇し、自らの言葉で作品を語ることでないだろうか。映画祭にはアニメーション作品も多くあり、こちらも連日豪華なゲストがトークイベントや舞台挨拶に姿を見せている。
 なかでも充実していたのが、ふたつのシンポジウムだ。10月27日は「青年を描くアニメーション」、10月29日は「アニメーション表現の可能性」をテーマに、モデレーターの藤津亮太氏のもと上映作品の監督・プロデューサー陣が活発な意見を交わした。

 「アニメーション表現の可能性」の可能性に登壇したのは、『かがみの弧城』の原恵一監督、『北極百貨店のコンシェルジュ』の板津匡覧監督、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の片渕須直監督、さらにスペインから『ロボット・ドリームズ』のパブロ・ベルヘル監督。いずれも映画、アニメーションでキャリアはたっぷりのという顔ぶれである。
 こうしたベテランが並ぶと通常は、話題の振りかたやバランスもあり、場の盛りあがりがなかなか難しい。しかし原監督と板津監督は『百日紅~Miss HOKUSAI~』のスタッフで旧知のなか、原監督と片渕監督は同じ世代。原監督が『巨人の星』で大リーグボール1号を花形満が打ち破った時の演出のすごさに触れると片渕監督がそれに答えるなど、活発なトークが行きかった。
 一人だけ通訳を介したパブロ監督も、積極的にトーク参加。実写映画出身という点で原監督と共通点もある。実写とアニメーションの違いや原作からの映画へのイメージの拡張などについて語った。また1980年代のニューヨークを描いた『ロボット・ドリームズ』が、今では存在しないものを描く点で、実は戦前の広島を描いた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と共通点があるなど意外な視点も明らかになった。

 アニメーション部門のなかのでの海外作品の上映は今年からの試みで、国内監督に海外監督やプロデューサーが混じったシンポジウムも今回の新たな試みだった。普段は国内と国外と分けて考えられがちなアニメーション映画だが、シンポジウムからは両者を区別せずに取り上げることで、新鮮な視点や気づきも多かった。こうした試みはまずは成功だったと言っていいのでないだろうか。

 そんな盛り上がったトークではあるが、明るい話ばかりではない。アニメーション業界における厳しい状況も話題になった。
 アニメーション技術の継承や人材不足の問題だ。原監督、片渕監督からはきちんとレイアウトを描けるアニメーターが少ないと言及があった。なかでも片渕監督の学ぶ時間がないのは分かるが、ただそれをやらないと大成しないとの発言は印象的だった。
 手描きの人材が少ないのは日本だけでない。パブロ監督はヨーロッパではCGが中心なので、2Dの人材を集めるのがとても大変であると話す。『ロボット・ドリームズ』では小さなチームで、コミュニケーションを密に取りながら制作したという。こうした点でも海外の異なった視点は、貴重に感じられた。

 2つのシンポジウムの全編と、映画祭の作品上映時のティーチイン・挨拶の一部は、東京国際映画祭のYouTubeチャンネルで公開されている。トークの詳しい内容は、こちらでじっくり聞くことが出来る。

【第36回東京国際映画祭のトークプログラム】  

■ アニメ・シンポジウム 「アニメーション表現の可能性」
https://www.youtube.com/watch?v=qxdnkSQ8dNo
■ アニメ・シンポジウム 「青年を描くアニメーション」
https://www.youtube.com/watch?v=NzbQKtTDkco
■ 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督トーク
https://www.youtube.com/watch?v=axepBJzKEk8
■『BLUE GIANT』立川譲監督トーク
https://www.youtube.com/watch?v=DI3mxxu4gM8&t=69s
■『トニーとシェリーと魔法の光』フィリップ・ポシヴァチュ監督トーク
https://www.youtube.com/watch?v=6p1CxZ3qfNI
■『北極百貨店のコンシェルジュさん』板津匡覧監督トーク
https://www.youtube.com/watch?v=an9QsBN9ifA

「アニメーションの表現」

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