2019年11月1日から4日まで北海道で開催された第6回新千歳空港国際アニメーション映画祭は、コンペティションを中心に多彩なアニメーション企画で盛り上がった。期間中の人出は延べ4万3000人と、もはや日本を代表する映画祭のひとつと言っていいだろう。
そのなかでも特に目を惹いた企画のひとつに、「アニメと特撮の文化を後世に遺すために」があった。アニメ・特撮研究家で明治大学大学院特任教授の氷川竜介氏、特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)事務局長の三好寛氏が参加。アニメや特撮の様々な資料を保存するATACの活動や、その意味について語った。
まずは氷川氏が『宇宙戦艦ヤマト』が放送された時代に制作素材に初めて触れた経験から始まった。これまでアニメ業界では、原画や設定、美術、セル画などの中間素材は作品が完成したら必要はないとされることが多かった。それに対して氷川氏は「フィルムを見て判ることは全体の一部」と話す。制作過程を知ることで、作品への理解も広がるというわけだ。その制作を知るために、中間素材が活躍する。
ところが近年になってアニメ・特撮の資料が保存・管理できない危機が起きている。それがATAC設立のきっかけになった。その後は2012年の東京都現代美術館での「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」の開催、2016年のカラー10周年記念展を通じて活動を広げて現在までつながる。
二人が強調したなかで特に印象に残ったのは、集めて保存することだけが重要なのでないということである。集めたものを解析し、未来に向けてタネを広げる。キーワードは「利活用」である。つまり活用することで次世代の文化創出につながるとの指摘だ。
三好氏が言及したウォルト・ディズニー・アニメーション・リサーチ・ライブラリーも興味深い話だった。ライブラリーの収蔵点数の多さはアニメーション関係者には知られていたが、保存のポイントは「教育のために使える」「先人の技術を継承できる」ことにあるという。ATACが目指すものもこれに重なる。
ATACは、今後も展示、出版、そしてトークなどの活動を続ける。特に2019年になり、活動のスピードを上げた。9月には初のトークイベント「アニメ再入門講座 第1回『宇宙戦艦ヤマト』」を実施したばかり。11月23日にも明治大学で「アニメ・特撮のアーカイブの意義と可能性-アニメ特撮アーカイブ機構の取り組みと『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』の資料活用事例」を講演している。
設立に伴う一連の仕事がようやっと一段落ついたということも理由にありそうだ。いよいよ本格的な保存、そして研究に向けて動き出したわけだ。
そのうえでATACには課題がある。民間の非営利団体だけに運営資金が必要になる。組織と活動の認知度を上げることで、寄付にも結びつけたい。それがアニメのファンも多く集まる新千歳空港国際アニメーション映画祭に足を伸ばす理由でもある。
特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)
https://atac.or.jp/donation/