ハリウッドの関心も呼び込むビジネス面:アヌシー国際アニメーション映画祭の戦略(中編)

ニコロデオンのプレゼンテーション

Ⅱ アヌシーでのビジネスとその拡大

■ ハリウッドの関心も呼び込んだ 拡大戦略

そんなアヌシーの近年の特徴は、北米企業の存在感の拡大だ。筆者が初めてアヌシーを訪れたのは2009年と7年前だが、当時は国際とは名前がつくものの、ヨーロッパのアニメーション業界の映画祭という印象が強かった。
しかし、2016年の印象はまさにグローバルである。とりわけアメリカのプレゼンスが大きくなっているように感じた。例えばディズニー/ピクサーは、今年、大量の作品と人を映画祭に送り込んだ。『ファィンディング・ドリー』のプレミア上映、最新作『モアナと伝説の海』の特別プレゼンテーションなど、これに大物監督、プロデューサーが多数、現地を訪れた。世界最大のアニメーションチャンネルで知られるニコロデオンもいくつもの作品をテーマにトークイベントを繰り広げ、さらに参加者との交流を実施していた。さらにワーナー・ブラザーズやカートゥーンネットワーク、ドリームワークス・アニメーションなどが、ヨーロッパ企業と肩を並べる。北米企業は作品のアピール、ビジネスの情報交換だけでなく、ヨーロッパの若手クリエイターを発掘する場としてもアヌシーを活用しているとの話も聞いた。
北米企業の呼び込みには、2013年に映画祭のアートディレクターに就任したカナダ出身のマルセル・ジャン氏の手腕を指摘する関係者も多い。ジャン氏がアニメーションに関わるあらゆる国、あらゆるジャンル、あらゆる機能をアヌシーにまとめあげることを明確に意識することで、そのネットワークを駆使して作品と人を集め、アヌシーの総合イベント化を加速させている。

■ いち早い長編映画の重視

ただし、アヌシーの総合化は、ジャン氏の就任以前から始まっている。例えば長編アニメーションの重視だ。アニメーション映画祭は作家性を重視することから、作家の個性がより表れる短編アニメーションを中心にプログラムを組むことが多い。数百人単位で制作されていることが多い長編は、予算の大きさゆえに商業主義に傾きがちであることも理由だろう。
そうした中でアヌシーは、2000年代初頭よりいち早く長編作品重視を打ち出した。90年代までは4本前後であったコンペティション作品は、2000年代に入り一挙に10本前後に急増、アワードの種類も増やされた。2007年の細田守監督『時をかける少女』長編部門特別賞受賞や、その後の2011年の原恵一監督『カラフル』、2014年の西久保瑞穂監督『ジョバンニの島』、2015年の原恵一監督『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』などへの評価もその流れにある。
アヌシーの読みはあたった。CG技術の広がりもあり世界のアニメーション産業が活発になり、近年各国でアニメーション制作本数は急増している。映画祭での長編への注目は増している。そのなかで世界で最も権威がある長編アワードはアヌシーとの地位を確立した。

■ 大統領も訪れ、アニメーション産業支援

アヌシーの地位向上は、開催地であるフランスの国益にも一致する。2016年に映画祭の躍進を強く印象づけたのが、オランド大統領の会場訪問だ。とりわけ国際見本市MIFAの視察が目玉となった。これはフランス政府のアニメーション産業支援をアピールしただけでなく、その産業の中心がMIFA、それを開催するアヌシーであることを国内外に強く印象づけた。
イベントのグローバル化は、フランスに多くの利益をもたらしている。国際アニメーション映画祭と言っても、やはり参加者の多くは、フランスからである。公式上映作品に占めるフランスの割合も高い。つまり、映画祭は、フランスでアニメーション関係者、作品が世界とつながる機会を増やしている。
2016年の映画祭のテーマ国には、60年の歴史を超えて初めてフランス自身が選ばれた。そこではフランスのアニメーションの歴史から、世界に対する影響、最新作がたっぷりと紹介された。映画祭が文化戦略の大きな武器となっていることが判るだろう。

■ アニメーション広告の芸術性を再評価 次のターゲットは「映像」と「広告」

アヌシーの拡大戦略は、とどまるところがないようだ。2016年は長編映画だけだったワーク・イン・プログレスに、テレビ番組のセクションが加わった。短編から長編、さらにテレビ番組も視野に収める。
さらなるターゲットは、アニメーション広告である。2016年の興味深い大型企画のひとつが、「Advertising in Animation:A True Art Form(アニメーションの中の広告:真実のアートフォーム)」だ。2016年がアニメーション広告誕生から75周年であることを記念したものである。特集上映や企画があり、過去作品の一挙上映や関連スタジオのトークが映画祭を盛り上げた。短い映像やビジネス的な制約が大きい中で創造性を発揮し、新しい表現に挑戦するアニメーション広告には独自のアートが存在する。それにフォーカスした。

コンペティションの広告部門(Commissioned Film)は、1960年の映画祭がスタートした際から設けられている。2016年は各国から49本がコンペインした。日本からのEz3Kiel『L’Oeil du Cyclone』(平岡政展)、ササノマリイ『共感覚おばけ』(牧野惇)もこの中に含まれている。今年のグランプリにあたるクリスタル賞は、ニューヨークタイムズ誌が発注した長さ3分46秒のショートストーリー『Modern Love – A Kiss, Deferred』が受賞した。
しかし、アニメーション広告は、映画祭でこれまで必ずしも注目されてきたわけでない。2016年の企画特集は、広告のフォームに隠れた芸術性の再評価を打ち出し、それを世の中に問った。広告と芸術性の併存は、今後、世界のアニメーション界の新たなトピックスに浮上しそうだ。日本も得意とする分野だけに、その動向が注目される。

後編 
http://animationbusiness.info/archives/1706

アヌシー国際アニメーション映画祭
Festival International du Film d’Animation d’Annecy
http://www.annecy.org/home/

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