「アニメ×地域」の最前線 “地域から、コンテンツから” JCSで明かされた最新事例

アニメ×地域」の最前線

アニメや映画、キャラクターなどを地域と結びつけた“聖地巡礼”がここ数年大きな盛り上がりを見せている。地方からは自治体や商工団体、そしてコンテンツ保有者やコンテンツを活用する企業からも関心が集まる。
一方で、コンテンツと地方を結びつけた試みには、課題も少なくない。コンテンツの人気の持続や、地方サイドと権利者サイドの思惑のずれなどである。なかでも地方とコンテンツホルダーの出会いの場が少ないのは地域を舞台にした作品はあるのに、関係者が出会う場がないことが大きな課題だ。

そうした課題を乗り越えて地域とコンテンツの連携を実現するノウハウが、10月26日、東京お台場のグランドニッコー東京で披露された。コンンテンツ国際見本市Japan Content Showcaseで開催された“「アニメ×地域」の最前線”と題したセミナーである。
ゲストに登壇したのは、DLEのエンタテインメント事業本部 本部長の松本淳氏、ソニー企業コンテンツツーリズム課 シニアプロデューサーの安彦剛志氏。DLEはそれぞれの地域の特性に合わせて独自のコンテツを開発、それを全国に広げていくビジネスに定評がある。一方、ソニー企業はすでにあるコンテンツを様々な施策やツールを用いることで、人々の関心を地域に向ける。対称的な立場からコンテンツと地域のつながりを生み出す。セミナーでは、「アニメ×地域」の成功例を生み出す先進的な方法が大きな関心を集めた。

松本氏は、地方におけるマーケットの大きさから話を始めた。日本の地方自治体の経済規模は、GDPで東南アジア1ヵ国に匹敵するという。例えば東京はインドネシアと同規模、北海道はベトナムと同じ規模だ。
ベトナムでビジネスに取り組む難しさを考えれば、北海道のビジネス開発のほうがより可能だという。単純な地域振興だけでなく、経済的な合理性もあるというわけだ。
また地域を活性化するために、地域経済で影響力の大きなテレビ局の力に着目する。例えばDLEが生み出したヒットコンテンツ「パンカパンツ」。いまでは日本だけでなく海外にまで広がるキャラクターだが、その始まりは静岡テレビ(SBC)でのアニメの放送にある。SBCにおける大量の露出を起点に、パンカパンツの静岡地区での認知度は短期間で80%を超えた。認知度が80%を超えるとライセンスがかなりスムーズに進むようになるという。
また松本氏は、DLEの強みとして、SNSの効果を測定、コンテンツにフィードバックする仕組みを挙げる。闇雲に取り組むのでなく、ビジネスモデルを構築し、ストラテージを採用する。地域振興コンテツでは政略的な取り組みが不足していると言われるが、DLEはそれを築いている。

ソニー企業の取り組みは、コンテンツから作り出すのでなく、既に何かのかたちで地域に結びついた作品を、地域と一緒になってファンに届ける。ここでも合理的なビジネスストラテージはあるのだが、一方でファンの心を重視する。
安彦氏は、こうした方法を「2C」として説明する。これは食の仕掛けを用いた“美味しい”と、地元の“やさしい”を掛け合わせた言葉だ。オタクが遊びに行ってもいいんだと思わせる「地域のやさしさ」が鍵だ。
近年、聖地巡礼の成功モデルになっている大洗町、飯能市、横須賀市で共通する仕組みとして、安彦氏は、街中、どこでも等身大のポップが設置されていることだと説明する。これがオタクに対するやさしさの表れである。このほか「大きな看板の設置」、「地元のお店によるオリジネルのメニューやオリジナルグッズ」、「溜まり場を用意=コミュケーションの場」などが力を発揮する。
また長期的な取り組みもソニー企業の特徴になっている。青森を舞台にした『フライングウィッチ』では、その協力は1年半にも及んだ。最初は月数十人ほどだったが、アニメ放送時には月3000人が現地を訪れるようになった。
ソニー企業と地域コンテンツというと、聖地巡礼アプリ“舞台めぐり”がまず先に出がちだが、独自アプリの開発自体は様々仕掛けを象徴するひとつに過ぎない。むしろ、その利用を地域と結ぶつけるノウハウこそが、肝なのだ。

セミナーは、コンテンツツーリズムは始まったばかりであると話で締め括られた。アニメと地域振興というと、ヒットコンテンツが放送されたことをきっかけに地元が対応するとの流れが思いつきやすい。しかし、今回の松本氏、安彦氏の話を聞くと、むしろより明確なストラテージを描くことで、より確かなファンとの結びつきを実現できるのではとの印象を受けた。まさにコンテンツツーリズムは、これからだ。

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