新しさを打ち出した東京国際映画祭、未来につなげた新体制

東京国際映画祭

■まずは成功の新生・東京国際映画祭
 2021年10月30日にスタート、10日間にわたり開催された第34回東京国際映画祭が11月8日に閉幕した。東京・千代田区TOHOシネマズ日比谷スクリーン12でクロージングセレモニーを開催し、各賞を発表した。
 セレモニーにはコンペティション部門 審査委員長の女優・イザベル・ユペール氏らが登壇。カルトリナ・クラスニチ監督の『ヴェラは海の夢を見る』が映画祭の頂点となる東京グランプリ/東京都知事賞など、いくつものアワードを授与した。
 コロナ禍で渡航制限が依然続くなかで海外から参加者は少なかったが、上映作品、受賞作品は国際映画祭に相応しいものだ。『ヴェラは海の夢を見る』は南東ヨーロッパに位置するコソボを舞台に、夫の自殺後に理不尽な状況に陥った中年女性を描く。

 コロナ禍ということで見落とされがちであったが、21年の東京国際映画祭は様々な変革で大きな節目となった。プログラミング・ディレクターに新たに市山尚三氏を起用、会場も六本木から日比谷・有楽町・銀座地区に移った。
 コンペティション部門では事前にワールドプレミア、アジアプレミアにこだわらず良質な作品を集めるとしたが、結果的には10本がワールドプレミア、5本がアジアプレミアとなった。全体でも31本のワールドプレミアはうれしい誤算だろう。アジア中心に組まれた上映作品の評価も高かった。また巨大複合ビルから飛び出して街中を散策できるのは、映画祭の魅力を増した。変革1年目として成功と言っていいだろう。

 勿論、課題もある。特に会場移動に伴い、映画祭の上映作品が大きく減ったのは問題だ。期間中の上映本数は126本、2019年の映画祭では上映本数は約180本。今年以上に制限が多く、コンペティションを見送った昨年でも138本である。2年前に較べると3割も減ったことになる。会場移転に伴う劇場確保や運営予算の課題もあったのだろう。
 そのなかでコンペティション部門の本数を維持しようとすれば、必然的に他部門にしわ寄せがくる。今年から「日本映画・スプラッシュ」部門がなくなり、他部門の上映本数もこれまでより作品を絞っている。

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■アニメーション部門に望まれること
 アニメーション部門も上映本数は不足気味だ。期間中の長編アニメーション映画の上映は6本、記録映画『飄々~拝啓、大塚康生様~』を含めても7本にとどまった。「大塚康生回顧特集」「主人公の背負うもの」とのふたつのテーマが打ち出されたが、もう数本あればより切り込んだビジョンを提示出来たはずだ。
 アニメーション映画に関しては、さらに継続的な課題がある。上映作品がジャパニーズ・アニメーション部門を中心にしているため海外アニメーション映画が上映されない。今回はユース部門に米国の『クリプトズー』があったのみである。
 いまや世界のアニメーション業界は長編アニメーションブームとも言える状況で、世界各国で優れた作品が生まれている。このなかでアニメーション文化が豊かと見られる日本が世界のアニメーションを発信、上映していくことに、大きな意味があるはずだ。それは説得力があり、日本の国際映画祭ならの差別化にもつながる。日本のアニメスタイルに影響を受けた作品も増えているだけに、グローバルなアニメーション映画の未来を提示も出来るだろう。
 映画祭の目的は日本から作品を送り出すだけでなく、グローバルな映画文化の交流にある。アニメーション映画についても、そうした視点が必要でないだろうか。

第34回東京国際映画祭 https://2021.tiff-jp.net/ja/

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